鎌倉においしいパン屋が集うのは何でだろう――。鎌倉ならではの時間の流れと風土が、作り手が自由にパンを“創作”するのにぴったりだから? 地元の人や観光客など、客層が多様ゆえにパンにもオリジナリティが生まれるから? と同時にベーシックなパンも愛されているから?

 そんな、個性あふれる“鎌倉パン”のラインナップのなかから大人の女性におすすめしたい3つのテーマ、「ワインに合うパン」「ヘルシーパン」「小さな駅の実力派」より、2軒ずつをエントリー。おいしいパンを携えて海を見ながらブランチを楽しんだり、お気に入りを買って家でティータイムのおともにしたり。とっておきのパンをハントしに、鎌倉へでかけませんか。

途中下車しても立ち寄りたい
小さな駅の実力派

 閑静な住宅地で小さいながらも地元の人に愛されるパン屋、和田塚「ママネ」と、極楽寺「ブーランジュリー ベベ」を紹介。どちらも定番メニューの中にも作り手の個性が光り、地元のグルメな大人が食べても納得の味わい。気取らないほっとする空気感とあいまって、毎日でも通いたくなってしまいそう!

●和田塚「ママネ」
ひと口で顔がほころぶ
素材のよさがいきるパン

 和田塚駅から歩いて約10分。鎌倉の中心部の喧噪から離れ、静かな住宅街に佇むのがこちらのパン屋。古民家風の建物と、まんまるいパンが描かれたグリーンの看板が目印。昔ながらの引き戸を開けると、店内いっぱいに広がったパンの香りが出迎えてくれて、しあわせな気分に。カウンター横のショーケースには、素朴ながら親しみのあるパンが、手書きのポップとともに並ぶ。

ウッディな設えで温もりのある店内。パンのショーケースの横には、オリーブオイルやスプレッドなど、厳選されたグロッサリーを、向かって右手の展示コーナーでは地元作家の作品を販売する。

 「作り手の顔が見える規模のお店だからこそ、安心で安全なパンを届けたい」。そんな、店主宮浦真理(みやうら・まり)さんのパン作りは、素材と向き合うことからはじまる。パンはすべて国産小麦、自家製酵母で作られる。小麦は、「北国の小麦ならではの力強い味わいが気にいって」と、北海道産を使用し、溶岩窯でじっくり焼かれる。

「鎌倉に住む人は、食へのこだわりが強いのはもちろん、健康に気をつかっている人も多い。そんな方々が安心してパンを買えるよう、あんぱんのあんこや夏みかんのピールなど、具材も自家製がモットー。無添加のものをなるべく使うようにしています」

 さっそく、夏に向けて登場したとっておきの新作を教えてもらった。

手前左:「クミンのカンパーニュ」240円、手前右:「レモンロール」200円、奥:「よもぎ豆乳あんぱん」220円。

 青森産のよもぎをたっぷり練り込んだあんぱんは、生地に豆乳を加えることで、ほんのりとした甘みが漂い、よもぎの青々とした香りとあいまって味に奥行きが生まれる。あんこは、十勝産の小豆ときび砂糖のみで作られた自家製。甘さ控えめで大人でも楽しめる。

 「自分で調合してカレーを作るほど、スパイスが大好き」という宮浦さんならではのアイデアが光るクミンのカンパーニュは必食の新作。ビールと一緒に味わいたい!

 自家製のレモンカード(レモンを使ったイギリスで定番のスプレッド)を生地で巻いたレモンロール。レモンは防カビ剤不使用の国産レモンを皮ごと使用。卵、バターと合わせてフレッシュでリッチなクリームが完成した。レモンピールも混ぜて食感のアクセントに。

カウンター横のショーケースには、素朴ながら親しみのあるパンが、手書きのポップとともに並ぶ。季節限定の酵母を使ったパンも人気。今なら、レモン、夏になるとトマト、バジルの酵母を使う予定だとか。カジュアルなプライスもうれしい。

 週末は観光客も訪れるが、日々のお客さんはほとんどが近隣の人。作り手にも買い手にも“贅沢な街のパン屋さん”となれるのが鎌倉の魅力だと宮浦さんは続ける。

「鎌倉には個人のお店が多く、作り手と買い手の距離が近いのがいいところ。こちらの姿勢が透けて見えるので意気込みますし、そのこだわりが許されるように感じます。そういった、小さいけれど信念を持ったお店が多いのも刺激になりますね」

パン作りから販売まで、お店を切り盛りする宮浦さん。
店の一角にある展示コーナーでは、地元の作家を応援している。取材時は、本業は花屋という、落合るみさんの作品を展示販売。「こんなのあったらなぁ」という思いを形にしたというそれらは、花器からブローチまでバリエーション豊か。

mamane(ママネ)
所在地 神奈川県鎌倉市材木座5-9-31
電話番号 0467-23-6877
営業時間 11:30~18:00
定休日 日・月・火曜
http://mamane.exblog.jp/

2017.04.29(土)
文=吉村セイラ
撮影=平松市聖