猫たちが談合する“猫スポット”が島のあちらこちらに

島の暮らしを見守るのは、ハート型のアコウ樹。島の防風林として100年前に植えられたもの。

 湯島での移動手段は、徒歩のみ。公共交通機関がないどころか、車も2台しか走っていないし、信号もない。でも、それで十分。1、2時間あれば、のんびりと島の見どころを見てまわることができる。

 「こんにちは!」 港で元気に挨拶してくれたのは、島の小学生。島にひとつだけある小学校は、全校生徒5名。島の人たちに見守られて、愛情いっぱいに育てられている子どもたちは、素直でとてもかわいい!

左:猫の島のシンボルとして建てられた猫神様の像。
右:この日、港では、全校生徒で「フカ狩り」を見学中。島の特産品である鯛の天敵、鮫を狩りその生態を研究する、昔から続く大切な行事なのだそう。

 船で沖に出なくても海岸で豊かな海の幸が獲れる湯島では、漁業に養殖はなく、素もぐりや一本釣り、はえ縄漁といった、自然の漁法が営まれている。つまり、魚介類はすべて天然もの。港の前にある小さな集落には、新鮮な地魚を食べさせてくれる食堂もある。

左:春は紫ウニ、夏は赤ウニと、季節によって異なるウニが食べられる天草。5月から8月末にかけては、赤ウニ漁のシーズン。海岸にはウニの殻が山積みに。
右:「獲ったばかりの島のウニ、ちょっとつまんでいかんと?」 さっき港で言葉を交わしたおばちゃんが、食堂で声をかけてくれる。一口食べた赤ウニは濃厚でとろけるようなおいしさ。

 人々の生活の場は、島の南側沿岸に集中している。島の道は、海岸沿いを除いて、ほとんどが坂道。一歩裏に入ると、急勾配の坂に狭い路地が入り組んでいて、まるで迷路のよう。こうした集落の造りは、「背戸輪(せどわ)」と呼ばれるもので、限られた場所に家を無駄なく建てる工夫なのだ。

路地裏を歩いていると思えばいつの間にか表通りに出て、猫しか通れなそうな細い道を下れば港に着く。交番がないのも、治安がいい証拠なのかもしれない。

 この小さな島を有名にしているのが、たくさんの猫たち。島には猫が200匹いるとも言われていて、いたるところで出会う。野良猫も飼い猫も、島の人々は、どちらも分け隔てなく可愛がるから、どの子もとても人懐っこい。路地の匂いと、道のど真ん中で堂々と昼寝する猫と、家の中から聞こえてくる声。道に迷いながら歩く島は、なんだか懐かしい気持ちにさせてくれる。

「あっ、さっき港にいた猫だ!」 ニャンコに声をかけると、臆することなく寄ってきた。しばし、交流タイム。
新鮮な魚を食べているからか、島の猫はみんな元気。猫がたくさん出没するスポットには、「neko」の立て看板が。

 のんびりと時が流れる島には、歴史を感じさせる史跡もある。ここは島原・天草の戦いで、密かに談合が行なわれた島。山の上には、談合島の碑やキリシタン墓碑があり、山腹の諏訪神社には、武器製造に使用された鍛冶水盤も残っている。

左:島には旧跡がたくさん。山の上の峰公園には、キリシタンの墓碑も。
右:鍛冶職人が武器を作るのに使用した水盤。
その昔、停泊する船の網を結び付けていたという石は、今は恋愛成就のパワースポットに。この石に両手をあてて願いをかけると、理想の相手が見つかるのだとか。

2016.07.17(日)
文・撮影=芹澤和美