美を創造する手法を、もっと気軽に知ることができる場が必要

 2012年に誕生した、宝石や時計に関する教育機関「レコール ヴァン クリーフ&アーペル」。ハイジュエラーとして知られるヴァン クリーフ&アーペルが、一般の人々に門戸を開いたこの学校は、世界でも類を見ない試みとして注目を集めている。今回は、3年ぶり、二度目になる東京でのレコール開催に合わせて来日した初代学長であるマリー・ヴァラネ‐デロム氏に、レコールの志す理念や内容を伺った。

「レコール ヴァン クリーフ&アーペル」学長、マリー・ヴァラネ‐デロム氏。

 ジュエリーや時計の歴史や文化的側面を伝える学校として、2012年に設立された「レコール ヴァン クリーフ&アーペル」は、宝石の聖地と言われるパリ・ヴァンドーム広場をメインフィールドとして講座を開校。現在では1カ月にフランス語で16コース、英語で16コース、計32コースが開校されている。

 宝飾品の長い歴史の中で、ジュエリーメゾンが一般の人向けに学校を開くというのは、「レコール ヴァン クリーフ&アーペル」が初めて。誰も挑戦していなかった未開拓の分野において、新たな扉を開いたのが、初代学長のマリー・ヴァラネ‐デロム氏だ。

「ハイジュエリーの世界は、長い間“閉ざされた世界”と言われてきました。限られた職人達が継承していくものであり、一般の人々がジュエリーの知識を学ぶことができるコースは世界中のどこにもありませんでした。しかし私は、そろそろ閉ざされたものを開放する時期が来ているのではないかと思ったのです。ジュエリーや時計に関する膨大な知識や、美を創造する手法を、もっと気軽に知ることができる場が必要なのではないかと」

普段はパリで行われている「レコール ヴァン クリーフ&アーペル」の講義をそのまま日本で受講できるサマーセッションが、3年ぶりにアンダーズ東京で開催された。

 そんなマリー氏の考えの下に運営されているのが「レコール ヴァン クリーフ&アーペル」。「芸術史」、「サヴォアフェール(伝承の技)」、「原石の世界」と大きく3つの分野に分け、ヴァン クリーフ&アーペルの工房で活躍する現役の職人達が講師をつとめている。

「レコールの講師は、職人として創り出すモノが優れているのはもちろん、ジュエリーに対する情熱があり、それを伝えていきたいという熱意を持っていることが条件。この3つの条件が揃っていても、更にそれをわかりやすく伝えることができなければ、講師にふさわしいとは言えません。現在28名いる講師は、すべて私自身が選び、厳しい条件をクリアした人達ばかりです」

 特別な知識を持たない一般の人々が、宝飾の世界を楽しく学ぶためにはどうしたらよいか? マリー氏は、最高の講師陣をそろえることはもちろん、講義内容やコースの選択方法などに至るまで心を砕いてきた。しかしながら、受講する方々には、その努力を感じて欲しくはないのだと微笑む。

「私は、16世紀の哲学者が言ったと伝えられる、“すべてのことを教えようと思えば、素朴な方法で、わかりやすく伝えないといけない”という言葉が、教育のために一番大切なことだと思っています。そのために、どう教えるのがベストなのかを常に考え、探り続けているのです」

東京でのサマーセッションで行われたのは、日本の誇る伝統工芸「漆芸」に焦点を当てた、パリでも大人気の講義。

 普段はヴァンドーム広場で開校しているレコールを日本で開催するのは、今回で二度目。

 3年ぶりに東京を訪れたマリー氏は、いつも日本人の旺盛な知識欲に驚かされているという。「日本には、いくつになっても学ぶ意欲を持ち続ける人たちがたくさんいますね。このセッションを通じて、フランスと日本の文化に対する認識を深めてもらえたら嬉しいです」。

 マリー氏に今後のヴィジョンを問うと「やりたいことは、山のようにあるのよ」と瞳を輝かせた。

「例えば、美術館や博物館と提携した講座や、文化人やアーティストなどスペシャルな講師を招く機会も増やしていきたい。現在は、e-ラーニングにも力を入れていて、誰でも見られるビデオもありますので、気軽に見て欲しいですね。レコールを通じて、ジュエリーや時計の世界をもっともっと身近に感じてもらえたらと思います」

●マリー・ヴァラネ‐デロム
レコール ヴァン クリーフ&アーペル学長。文学修士号を取得後、教師としてのキャリアをスタート。25年にわたり、ジュエリーに関する幅広い知識を伝える。

ヴァン クリーフ&アーペル ル デスク
フリーダイヤル 0120-10-1906
URL http://www.vancleefarpels.com/jp

レコール ヴァン クリーフ&アーペル
URL http://www.lecolevancleefarpels.com

2016.07.19(火)
文=湯澤実和子
撮影=佐藤 亘