●夏目漱石の家

 吉本さんと一緒に、かつて夏目漱石が住んでいた「第六の旧居」も訪ねました。明治33年(1900年)、漱石が熊本にあった五高の教師をしていたころの家で、藤崎八幡宮の近くにあります。

 築120年ほどの建物ですが、しっかりと建っていました。

 中にあがらせていただくと、ところどころにひび割れが見られます。建物の管理をしている磯谷さん姉妹によれば、余震のたびに少しずつ崩れてしまうところもあるようです。

 2016年の今年は、漱石来熊(熊本に来ること)から120年、2017年は漱石生誕150年ということで、熊本の漱石関係者は盛り上がっていたそうです。地震発生前日の4月13日には、市内で「漱石来熊120年祭」も開催されていました。その最中での出来事。漱石が住んでいた家は、全国各地にいくつかありますが、当時のままの姿をとどめているのはこちら「第六の旧居」と市内中央区の「内坪井旧居」ぐらいだそうです。なんとか修復できればいいのですが。

●橙書店とorange

 「熊本旅行記」のなかで村上春樹さんが朗読会を行った「橙書店」も訪ねました。こちらも古い建物なので、ところどころ崩れてしまい、本棚が倒れるなどの被害があったそうです。しかし常連客の手助けと、お店をひとりで切り盛りする店主・田尻久子さんのがんばりで、4月22日には営業再開を果たします。

 現在は、併設のカフェ兼雑貨屋「orange」も部分的に営業しています。

この日も「orange」には常連さんたちが集っていました。

 田尻さんは今年2月、地元の作家たちと熊本発の文芸誌『アルテリ』を創刊したばかり。「この先どうなるか、わからない」と不安を口にしていましたが、お客さんたちの会話を聞いていると、このお店を必要としている人たちがたくさんいることが伝わってきます。

2016.05.09(月)
文・撮影=CREA編集部