【KEY WORD:パナマ文書】
「パナマ文書」と呼ばれる超一級の機密文書が暴かれて、世界中が大騒ぎになっています。
この文書がどういうものかというと、世界中の大金持ちがどういう資産運用をしているのかが書かれているものなのです。この運用をうけおっていたのが、パナマに本社のある「モサック・フォンセカ」という法律事務所。
わかりやすく具体的に言えば、パナマ文書の意味というのはこういうことです。たとえば先進国の有名な政治家が、ひそかにお金をたくさん貯め込んでいるとします。彼はこのお金で高級な大型ヨットを買って、のんびりクルージングを楽しみたい。でもヨットを購入して自分の名義で登録したりすると、どこかからその情報がばれて、テレビや新聞に「贅沢三昧だ」と報道されてしまう危険性があります。じゃあどうするか。
そこで政治家は、モサック・フォンセカに相談するのです。お金をカリブ海の島にあるペーパー会社に移動させれば、その先でそのお金がどうなっているのかは本国のマスコミにはいっさいわかりません。そのペーパー会社がヨットを購入し、本国とは別の南国のリゾートにある港にヨットを係留しておく。そうすれば政治家は、夏休みにその南国に行って、マスコミの目に触れないようにしながらヨットに乗り込んで自由にクルージングを楽しむことができるというわけです。書類上はヨットと政治家はなんの関係もないので、いくら調べられてもヨットを所有していることがばれる心配はありません。
こういうお金の移動が、実はパナマ文書を見るとわかってしまうということなのですね。だからお金を隠しておきたいと思っていた世界中の企業やお金持ちたちは、パナマ文書の暴露で真っ青になっているというわけです。
カリブ海にある「天国」
先ほど「カリブ海の島にあるペーパー会社」と書きました。バージン諸島やケイマン諸島が有名ですが、こういう場所は「タックスヘイブン」と呼ばれています。日本語に直訳すれば「租税回避地」です。税金が安く、おまけに他の国に対してその場所にあるペーパー会社がどのようなお金を持っているのかという情報をほとんど公開していません。だから企業やお金持ちがタックスヘイブンにお金を移動させると、そのお金がどう使われ、どう儲けて増やしているのかがまったくわからなくなってしまうのです。
このタックスヘイブンは国際社会でも大きな問題になっていて、タックスヘイブンに対して情報を公開するよう求める圧力も高まっています。今回のパナマ文書の暴露がきっかけになり、情報公開の圧力はさらに高まるでしょう。今後、情報の透明化が進んで企業やお金持ちが納税を回避できないようにしていくしくみの確立が求められています。
佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/
Column
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2016.05.02(月)
文=佐々木俊尚