ペソアの生涯と魂に触れる晩年の家へ

 彼のことを考えながらリスボンを歩いていると、どうしても行きたくなる場所がある。

 「フェルナンド・ペソア邸」だ。

 ペソアの息づかいが聞こえてくるような空間で、異名の誕生に立ち会った整理タンス、死後に見つかった未発表原稿の詰まったトランク、眼鏡、タイプライター、身分証明書、小ぶりのベッド、壁の写真を見て、ペソアの儚い実在を確認したくなるからだ。

おお 塩からい海よ
お前の塩のどれほどが
ポルトガルの涙なのか!
我らがお前を渡ったがために
どれほどの母親が涙を流し
どれほどの子どもが虚しく祈ったことか!

――フェルナンド・ペソア

Casa Fernando Pessoa(フェルナンド・ペソア邸)

ペソアの生涯と詩人の魂に触れる晩年の家
ペソアの詩集を読み、彼の通った店の数々を訪ねたら、この詩人が晩年を過ごした小さな部屋に向かいたい。ペソア博物館として改装された空間には、「子どもの頃から先生の話を聞かずに“想像上の友人”を創造していた」という彼の生涯を辿る資料の数々と、ペソア自身が作成したという〈異名〉の作家たちのホロスコープ、本人の愛用品が並んでいる。中でも注目すべきは彼の思考がびっしりと書き込まれた膨大な蔵書と、3万点近くの未発表の原稿が見つかったというトランク、立ったまま執筆するスタイルだったペソアが机代わりにしていた整理タンスだろう。創作に明け暮れた彼の暮らしに思いを馳せながら館内を歩くと、質素な調度品の一つひとつが詩人の思考と繫がる装置のように感じられるだろう。ペソアのことを知るなら必ず訪れたい場所だ。

所在地 Rua Coelho da Rocha 16-18, Campo de Ourique, Lisboa
電話番号 213 913 270
営業時間 10:00~18:00
定休日 月曜
料金 5ユーロ
https://www.casafernandopessoa.pt/

フェルナンド・ペソア(1888年6月13日-1935年11月30日)

アルベルト・カエイロ、リカルド・レイス、アルヴァロ・デ・カンポスなど複数の〈異名〉を創造し、それぞれ異なる人格や文体で作品を書き分けたポルトガルの詩人・作家。代表作『不安の書』で知られる。17歳まで南アフリカで過ごし、帰国後はリスボンで翻訳業の傍ら創作を続け、20世紀のヨーロッパ文学に大きな影響を与えた。

文・解説 渡辺一史(わたなべ・かずふみ)

ポルトガル近現代文学・思想史研究者、ペソア研究者。著書に『O Neopaganismo em Fernando Pessoa』。訳書に『フェルナンド・ペソーア 自己分析 他30篇の詩』など。

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