「ぼくとは様々な劇を上演する生きた舞台なのです」

 思ってみれば、ペソアというこの詩人の名前は象徴的だ。ポルトガル語の「ペソア(Pessoa)」という語の意味は「人」であり、その語源は「仮面(Persona)」だ。

 つまりこの語は、個別具体の誰かを指し示すことはできない。この輪郭の無い海のような、誰でもあり誰でもないことを意味する語を名に持ち、それを引き受けた者が自分の在り様に意識的になるのは納得ができる。

 ペソアは言っていた。

「ぼくは自分のなかに様々な人を創造しました。(略)創造するのに、ぼくは自分を破壊したのです。ぼくとは様々な俳優が通り過ぎ、様々な劇を上演する生きた舞台なのです」

A Brasileira do Chiado(ア・ブラジレイラ・ド・シアード)

街のアイコンとして愛されているブロンズ像
シアード地区のガレット通りを歩いていると、ふと視線を感じて足が止まる。椅子に腰かけ足を組み、今にも議論を始めそうなブロンズの男性。カフェ「ブラジレイラ」に1905年の創業初期から通っていたペソアの姿を記念したものだ。彼の背後にある店に入るとアール・デコ調で統一された重厚感のある店内を気配りの行き届いた店員が足早に動き回る。ポルトガルのエスプレッソ“ビカ”発祥の店として知られ、パステル・デ・ナタや目玉焼きのせステーキなどポルトガルの代表的な食文化を楽しめる。食事だけでなく、店限定の装丁でペソアの詩集『Mensagem』を購入することも可能。15カ国語に翻訳された版に残念ながら日本語訳はまだないものの、老舗カフェで詩人の言葉に浸るひとときはリスボンでの唯一無二の記憶となるに違いない。

所在地 Rua Garrett 120-122, Chiado, Lisboa
電話番号 213 469 541
営業時間 8:00~22:00
定休日 無休
https://ovalordotempo.pt/marcas/a-brasileira-do-chiado/

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CREA Traveller 2026年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。