ゴミ袋は3袋出した。生活をした。仕事をした。頑張った。
ご褒美に少しいいランチを食べようと思ったけど、ぜんぜん美味しくなくて本気で傷ついた昼もあった。ひとりで、少し離れた会場に映画を観に行って、『コンゴ・ボーイ』を観た日は、知らない土地の切迫が迫ってきた。そのまま、なんとなく、もう日本に帰りたいなという気持ちになって、マルシェの会場の方に戻ったら、二井さんを発見。一緒に市場を見て、見たことのない形の野菜に元気をもらった。公園では老人たちがペタンクをしていて、丁寧に投げ方を教えてくれた。
カンヌの間は、二井さんが腕を振るって美味しい料理をたくさん作ってくれた。ラデッシュをたくさん買って、毎日塩につけて食べた。カンヌの思い出の野菜第一位。石田さんはコーヒーを毎日入れてくれた。エスプレッソマシーンのじわじわと立ち昇るコーヒーの匂いが朝だった。
毎日通う道も、その土地にある植物が地面に影を作る姿にうっとりしたり、視線がいつも喜んでいた。歩いた。とにかく歩いた。私は映画を撮るためにとにかく歩いているんだと、iPhoneに表示される歩数が加速する気持ちと呼応していた。
石田さんや二井さんとは共同生活を成し遂げた信頼が生まれ、出逢えて嬉しい気持ちが充溢する。フィルムフロンティアのメンバーや、ミーティングで拙い英語を真剣に聞いてくれたプログラマー。こうして、素敵な人と出会えているということを通じてでしか、自分への信頼は大きくなっていかない。
なんだか、あっという間に最終日になり、この部屋を出ることが少し寂しい。ゴミ袋は3袋出した。生活をした。仕事をした。頑張った。散らばった荷物を、キャリーケースに詰めていく。お土産をゆっくり選ぶ時間がなかった。カンヌで浮かんだ友達がたくさんいたのに、まともに買えなかったな。名刺、ぜんぶなくなった。たくさん挨拶したな。
私と二井さんは石田さんより先の、朝6時の飛行機だった。3時半に、石田さんが見送ってくれる。狭いエレベーターにキャリーケースだけ乗せて、私は階段を降りる。2階には家族が住んでいて、ドアに小さなメモ用紙が挟まっていた。そういう生活の一枚を横目に、水色の扉を開ける。
空港では、かっこいい植物が私たちを見送ってくれた。「ほんとうにお疲れ様でした!」二井さんにカメラを向け、ダイヤルを回す。フラッシュを焚くのを忘れてしまった。
