毎日怒涛のように過ぎていくカンヌ。そして太陽は変わらない。

 次の日の朝、私と二井さんで、近所のパン屋までランニングをした。そういえば、太陽って人見知りしないんだな。日本もカンヌもおんなじ太陽だけど、なんかそういうことに初めて気づく。パン屋で美味しそうなものを指さす。1キロとかしか走ってないけど、誇らしい気持ちになる。

 会場までの道では、知らない毛並みの犬が何匹も通り過ぎ、鼻腔に慣れない匂いが迷い込んで、心が動く。知らない町の知らない時間、知らない生活。人が多い。ここにいる人たち全員映画好きなのおもしろ。入り口を探していると、フィルムフロンティア一期生である、映画監督の川和田(恵真)さんと遭遇した。案内してくれるらしく、一安心だ。

 マルシェでは、ユニジャパンの眞島さんが色々案内をしてくれた。こういったマーケットって、実際に自分の足で歩いて映画を作る仲間を探していく感じ、人生が凝縮されている心地になる。

 今回の滞在、前半の大仕事といえば、ピッチ(プレゼンテーション)の大発表会であった。各国のパビリオンが並んでいるのだが、そのジャパンブースで、フィルムフロンティアに採択された数個の企画を紹介してもらえることになったのだ。そこで、企画書を見せながら「どんな映画を作るか」「具体的に何を探しているか」などを大発表する。

 出番はいちばん最初だった。会場は満席で、やっぱり緊張する。来る途中にあった花屋で買った、つやつやの植物をマイクと一緒に持って、頼りない英語を空間に置いていく。そんな私をよそに、植物は人間社会お構いなしにただそこに在る。揺らすたびに葉音が笑って、わたしは安心する。無事に発表も終わり、フィルムフロンティアの他のメンバーのピッチも見て、みんながみんな撮りたい映画を意思と社会との接地面を確かめながら編み込んでいることに少し圧倒される。

 マーケットの目的といったら、挨拶だから、とにかく挨拶のオンパレード。基本、挨拶好きだし、映画も挨拶したいから作っているみたいなところあって、疲れるけど楽しい。こういう明るい挨拶も、その奥にこの人の知り得ない人生が積もっている。誰と映画を編んでいきたいかを考えることは、すなわち映画をどう作るかを考えることだ。関わった人たちは自然と映画に編み込まれていく。こうして思考の路地裏を歩くことが、結果的に物語に良い変革を生む。

 帰りはスーパーで買い出し。何が円安ホクホクだ。物価がかなり高いので、夜ご飯はお家で作った方が安い。私たちの家に帰る。人が二人ほどしか入れない小さなエレベーター。数日も経てば、私の寝室は私の散らかりを披露する。ベッドに寝転び、携帯をいじる。日本とは7時間の時差。距離を夢想する。

 名刺の整理をしたり、メールでアポイントを取ったり、あとは出町座上映の宣伝をしたり、家でもなんだかやることが次々に降ってきて、休まらない。

 次の日も、そのまた次の日も、マルシェに通いながら、ミーティングでは自分の映画について、まだ私自身あまり知らないんじゃないかと思ったり、たまに海で砂を触砂を触りながら、混線した思考を整理したり、ヘトヘトで帰る日々が続いていた。そもそも映画祭にきて、しばらく経っているのにまだ映画が観れてない。全然チケットが取れないのである。かなりの争奪戦だ。一瞬で売り切れていくから、もうテキトーに取るしかない。最終的に何本か観ることが出来たが、特に印象に残ったのは朝イチで見た『La Gradiva』だ。フランスの学生たちが修学旅行でポンペイ遺跡に訪れて、過去や土地や先祖たちが旅に目眩を起こすような物語だった。映画は視線でできている。当たり前のことを新鮮に投げかけてくる映画って楽しい。

 そんなこんなで、毎日、怒涛に溶けていった。

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