「努力家」→「イタい女」と評価が一転した“事件”

 災難はつづく。2010年、アカデミー賞が若い視聴者を呼び込むべく、通例はベテラン芸人が就く司会に、若手俳優である彼女とジェームズ・フランコを抜擢したのだ。関係者によると、アンはひたむきに準備し、女性表現についても配慮していた。一方、サブカル肌のジェームズはまともに協力せず、本番の授賞式でも「泥酔疑惑」がかけられるような態度をとった。

 気まずい空気のなか、アンは舞台を持たせるため一人で奔走したが、そのがんばりも空回り。裏舞台のことなんてつゆ知らずな視聴者からすれば、彼女のほうが悪目立ちする結果に。今ほどフェミニズムが普及していなかった時代なのもあり「男のやる気を削いだイタい女」と責める論調すら出てきた。愛されていたはずの努力家ぶりが、嫌われる要素に転じてしまったのだ。

 バッシングのピークは、またもやアカデミー賞。『レ・ミゼラブル』(2012)でファンテーヌ役を熱演したアンは、売れっ子としてメディアに出続けて、露出過剰状態に陥る。見事オスカーに輝いたものの、その頃には、彼女のことを「あざとくて大袈裟」「頑張りすぎてイタい」と嫌うことがブームとなり「ハサヘイト」現象とまで名づけられてしまっていた。

 「ハサヘイト」の理由はなんだったのか、今でも説明できる人は少ない。「完璧すぎる優等生」なイメージが大衆の癇に障った面はあるかもしれない。しかし、ハリウッド恒例の「オスカーの呪い」と見るのが妥当だろう。

 30代から中年にかけて全盛期を迎えるスター男優と異なり、女優が良い役をもらえるのは20代から30代に集中している。ゆえに、人気女優は若いうちにたくさんの話題作に出ていって露出過剰状態となり、いざ賞に輝くと「若くしてすべて持っている女」として一気に嫌われてしまう現象だ。

 当時、アンと比べて「自然なサバサバ系」と褒め讃えられていた後輩女優のジェニファー・ローレンスにしても、数年後には「あざとい」と叩かれようになる。ちょっとした会話が切り取られて「わがまま女優」と報道された際、声を上げたのはアンその人。誤情報を指摘し、メディアや世間の女性蔑視を批判したのだ。「それまで持ち上げてきた女性が少しでもミスを犯したら容赦なく引きずり下ろすなんて、悲しい慣習はもうやめにしましょう」。

 逆境の中でも勇敢さを失わなかったアンだが、猛バッシングが残した影響は大きかった。「あまりの悪評」によりトップ監督から干される事態に陥ってしまったし「大袈裟」という中傷自体、本人がずっと気にしていたことだからこそ深く傷ついたという。

 それでも、持ち前の情熱を失わなかった。お手本は『プラダを着た悪魔』ミランダ役の大女優、メリル・ストリープ。彼女のように、つねにアーティストとして成長していくキャリアを追求し、小規模な作品や舞台で挑戦をつづけた。

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