小泉八雲と妻セツをモデルにしたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が、惜しまれつつ最終回を迎えました。
主人公トキ(髙石あかり)と夫・ヘブン(トミー・バストウ)が結ばれるにあたっては、ドラマでも「ラシャメン(洋妾)」差別や国際結婚の難しさが描かれましたが、実際のセツも当初は「妾」と見られていました。
それを覆したのは、八雲自身が示したセツへの深い“愛情表現”。八雲の親友・西田千太郎(吉沢亮が演じた錦織友一のモデル)が、日記の表現を「ヘルン氏ノ妾」から「せつ氏」にたちまち変えたほど。
『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮文庫)から、家族に恵まれない人生を送っていた八雲が40歳で結婚した年下妻セツをいかに大切にしたか、その“愛情エピソード”を紹介します。(全3回の1回目/2回目「ばけばけ」夫婦の真実を読む)
それだけではない。ハーンは、新しい結婚に慎重にならざるを得なかった。彼は、シンシナティの下宿で働いていた4歳年下の混血女性マティ(アシリア・フォーリー)と結婚、25歳の時に結婚し(州法で非合法)、まもなく破綻という、苦い体験の持ち主である。彼は後に、松江再訪(1896)以来親しくなった田村豊久の性急な再婚を諫(いさ)めて、「私が君の立場だったら、彼女に度々会って話をし、見極めをつけないでは─つまり、これから自分が何をしようとしているのかを知らずに─若い女を妻に娶ることはしないだろう……思うに、君は相手が君にとって真実いとしいものとなるという確信なしでは、いかなる女とも再婚すべきでない」と書いているが、セツとの関係についても、自ずとこの自省が働いたであろう。
北堀町の士族屋敷
ハーンとセツは、6月22日に北堀町の士族屋敷(現在の小泉八雲旧居)へ引越して、セツの表現を使えば「一家を持った」。それに先立って、西田に「救済」への取り成しを依頼した実母のチエは、ハーンから、殿町も先に住んだ家からほど遠からぬ所に、小さな家を借りてもらい、家財道具の調達を受けて、生活を再開している。
このチエの救済に関する取り次ぎを記した西田の日記でも、セツの存在をあらわにしてハーンの私生活を報道した『山陰新聞』(6月28日)でも、セツは「ヘルン氏の妾」であった。しかし、「思ひ出の記」で語られている山鳩の話からでさえ、2人の心がお互いに対して、次第に開かれていったことが推し量られる。そして、セツがハーンから真に愛されるようになったことは、ハーンがチェンバレンに宛てた7月25日付の手紙の中で、「日本の女性は何と優しいのでしょう。日本民族の善への可能性は、この日本女性の中に集約されているようです」と書いていることにも窺える。
