NHK連続テレビ小説『ばけばけ』が2026年3月27日の放送(第125話)にて最終回を迎え、物語の幕を閉じた。ドラマでは小泉八雲とセツの夫婦が桃源郷のような幸福を築く姿が描かれたが、現実には八雲の没後、小泉家には次々と悲劇が降りかかった。

 三男・清、次男・巖、長男・一雄——それぞれがいかなる「棘の道」を歩んだのか。歴史家・長谷川洋二の著書『八雲の妻 小泉セツの生涯』(潮文庫)をもとに、その実像をダイジェスト版でお届けする。


「ゴッホやモディリアーニと同じ方向と曲折」と評された三男・清の生涯

 三男の清は、東京美術学校(現・東京藝術大学)在学中に結核を患い、入院中に看病を続けたモデルのシズと恋仲になった。退院後、セツと長男・一雄の反対を押し切って結婚。生活費の仕送りを断たれた2人は京都に出て、清は映画館でヴァイオリンを弾く楽師となり、シズは編み物の仕事をして日々を凌いだ。

 当時2人の住まいを訪ねた知人・三成重敬は、その住まいについて「暗く小さな一つ部屋で、みかん箱2つを置くだけのもの」であったと記している。壁にはゴーガンの絵が1枚貼ってあった。清の先輩・里見勝蔵は、その歩みが「方向と曲折において、ゴッホとモディリアーニのそれと同じ」だと評した。

 その後、清は「小泉画伯」として名声を得るが、芸術と生活の苦悩は絶えなかった。妻シズの急逝後、その冷たい体に身を寄せて何時間も泣き続け、3ヶ月後に62歳で自ら生涯を閉じた。

 次男・巖は、京都帝国大学在学中に情熱的な恋に落ち、ほぼすべての必修科目で不合格となって除籍処分を受けながらも、翠と結婚。のちに京都帝大文学部で英語英文学を専攻し直し、教師として「天職に安んじる」生活を送った。しかし40歳で癌により他界。妻子と別れ、アパートで孤独感と死への不安を抱えた最晩年だった。

 長男・一雄は、父ハーンを「太陽と惑星のように、生涯かけて慕い尊敬する対象でした」(息子・時氏の言葉)と慕い続け、著作・編集の書籍七冊すべてを父に関わるものに捧げた。しかし次第に不幸な精神状態に陥り、昭和40年(1965)に71歳で世を去った。

 セツの実弟・藤三郎(ドラマでは雨清水三之丞のモデル)も、先祖の墓を売り飛ばしたことを八雲に厳しく叱責され、以来姿を消した。その16年後、45歳のときに空き屋で遺体となって発見されている。

 八雲が世を去った後に訪れた苛烈な現実——セツはそのすべてを見届けながら生きた。

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本編は、以下のリンクからお読みいただけます。

〈「ばけばけ」では描かれなかった“その後の悲劇”〉実弟は空き家で孤独死。「桃山中学随一の美男」と称えられた次男も不倫の末、40歳で孤独死。そして三男は…

長谷川洋二

歴史家、八雲会会員。1940年新潟市生まれ。新潟大学人文学部で史学を専攻、コロンビア大学のM.A. 学位(修士号1974)・ M.Ed. 学位(1978)を取得。一時期会社員、前後して高等学校教諭(世界史担当)。旧著『小泉八雲の妻』(松江今井書店、1988)のほかに『A Walk in Kumamoto:The Life and Times of Setsu Koizumi, Lafcadio Hearn's Japanese Wife』(Global Books, 1997)、『わが東方見聞録─イスタンブールから西安までの177日』(朝日新聞社、2008)がある。

八雲の妻 小泉セツの生涯

定価 1,210円(税込)
潮出版社
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