主題歌「笑ったり転んだり」の中のハッとする一節
主題歌「笑ったり転んだり」の中に、「日に日に世界が悪くなる」というハッとさせる一節があります。これはハーンがかつて感じていた、世界が自分たちの手の届かない、冷たく硬い場所へ変わっていく絶望を、現代の視点から接続したものでしょう。
不穏な国際情勢や不寛容な「排外主義」が加速する今、私たちはかつてハーンが危惧した「明治の熱狂」に極めて近い、危うい崖っぷちに立っています。
ただ『ばけばけ』は、この重いテーマに対して高らかに批判の演説をすることも、直接的に日清戦争の描写を挟むこともしません。
戦争描写を前面に出さず、「軍都」となった熊本にて、背後に忍び寄る「軍靴の足音」を挿入することで、戦争の影を静かに提示しました。
生活の地続きにある変質。日常の空間に不穏な何かが入り込んでいる感覚は、俳人・渡辺白泉の句「戦争が廊下の奥に立つてゐた」を彷彿とさせます。今作はこの不気味な足音を否定せず、しかしその横で淡々と、互いを慈しみ合う二人の姿を映し出し続けました。
テレビのニュースでリアルタイムに爆撃の映像が放送される重苦しい時代です。そんな折だからこそ、一時だけでも「笑ったり転んだり」する何気ない、愛おしい日常へと視点を向けさせてくれることもエンタメの役割といえるでしょう。
それに、戦争によって踏みにじられることになる「名もなき人々の穏やかな暮らし」を丁寧に描くこと自体も、現代の観客には「今のまま進んでいいのか?」と問いかける、最も鋭い警鐘になっている気がします。
