ヘブンとトキが教えてくれた、優しい自分へと「化け続けること」
この困難な時代真っ只中に放送される朝ドラとして、『ばけばけ』は非常にチャーミングな、しかし本質的にタフな回答を用意しています。それがタイトルにもなっている「化ける(ばけ)」という概念です。
『ばけばけ』が描くのは、「わからないものを、わからないまま愛する」という高潔な作法です。
私たちは日々、無意識のうちに「自分はこういう人間だ」「あの人は理解できない」と、心のシャッターを下ろしてしまいがちです。しかしトキは、ヘブンという「未知なる隣人」を、無理に自分たちのルールに馴染ませようとはしませんでした。
むしろ、どこにいても「よそ者」でありながら、それぞれの土地で深く根を下ろし、その本質を理解しようとしたヘブンに影響されることで、自分自身が軽やかに「化けて」いくことを楽しんだのです。
これは、マジョリティの論理に他者を従わせようとするナショナリズムや、効率をすべてとする現代社会に対する、最も静かで強力な抵抗としても読み取れます。
それに劇中で二人が交わす「ヘルン言葉」(片言の日本語と英語が混ざり合った、不完全な対話)にも、現代の私たちが学ぶべき「愛という名のコスト」が詰まっています。
効率が支配する現代、私たちは「手っ取り早く理解すること」を求めすぎます。しかし、トキとヘブンの会話は、いつも遠回りで、もどかしい。怪談話を一つ伝えるのにも、何時間もかかります。
ですが、その「手間」こそが愛なのです。相手を完全に理解できないことを認め、それでもなお、隣に座って耳を傾け続ける。このコストを惜しまない姿勢こそが、他者を排除せず、共に生きるための唯一の道であることを、本作は優しく教えてくれます。
今日、誰かに対して抱いた「嫌悪感」という小さな排他性を、ほんの少しの「好奇心」という魔法で変えてみる。それだけで、私たちは昨日より少しだけ優しい自分へと「化ける」ことができます。
国がどこへ向こうとしても、社会がどれほど冷たくなろうとしても、私たちは「目に見えない大切なもの」を守り、誰かの孤独をケアし続けることができるはずです。
「化ける」ことは、決して自分を失うことではありません。異質な他者と出会い、影響し合い、より豊かで優しい自分へとアップデートし続けるだけのことです。
『ばけばけ』という物語が私たちに届けてくれたのは、異質なものとともに笑い、転びながら進んでいくための「しなやかな勇気」なのかもしれません。
連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK総合)
最終回 3月27日(金) 午前8:00〜8:15
最終回(再) 3月27日(金) 午後0:45〜1:00
