崖と空、海の色彩を追っていつもと違う旅をしてみる
崖上にポツンと立つ聖ヴァレリー教会を、引き潮の砂浜から見上げると、19世紀に描かれた様子から断崖絶壁の形が、崩落で変化していることに気づく。光の向きで崖や砂浜が徐々に色づくことにも。
プールヴィル・シュル・メールでも光の加減によって変化する海や周辺の草地の様子を、崖の上から下から、モネは10数点以上も切り取った。
他にもディエップでは、内港を前景に、聖ジャック教会と聖レミ教会がほぼ隣り合う角度から、夕暮れ時の港と街を現在のラ・マルヌ河岸から描いた。その10年前にル・アーヴルで描いた《印象、日の出》とは対照的な光と影だ。それは、半世紀前に英国のウィリアム・ターナーが描いたディエップ港と、ほぼ同じアングルでもある。
大航海時代の貿易港、絶対王政期の要塞として栄えたこの街の海や港は、ウジェーヌ・ドラクロワやカミーユ・ピサロらも風景画にしている。
ディエップ滞在の後、モネはブルターニュや南仏、オランダと、これまでと異なる水辺に誘われるように旅を重ね、水面の表現に磨きをかけていく。
今日のディエップは4つの港をもつ街と呼ばれ、前述の英仏フェリー船の港と物流港に漁港、ヨットの港を擁する。とくに帆立貝の水揚げ量が多く、跳ね上げ橋から寸詰まりの姿の漁船が、勇ましく発っていく。
週末の聖ジャック通りを中心に立つマルシェは活気に満ち、海産物やチーズ類といった土地の食材を眺めながら散策したい。
CREA Traveller 2026年春号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
