「繊細な美少年」から転向…下ネタラップの「中身」

 かねてより「同一人物」説が流れていたイケメンラッパーとコラボしてラップにも挑戦した。そこで自慢しているのは、輝かしいオスカーノミネート経歴や熱狂的ファン層、そしてモテっぷり。「俺のアソコは若盛り」「トリプルA級の美女たちからねだられる」

 大胆な「キャラ変」は「繊細な美少年」ブランドを破壊するものだったが、映画に疎い若者、特に男子からの支持が急上昇したことは言うまでもない。なにより、ティモシーの目的が達成されたことは、数字を見れば一目瞭然だった。本国で昨年公開された『マーティ・シュプリーム』は、卓球にまつわる時代劇というニッチな設定でありながら配給会社A24史上最高となる2.7億ドルの興行収入を記録した。一年で最も「映画館に来ない層」を動員した劇場映画とも言われている。

 この画期的な成功と「キャラ変」は切っても切れない関係にある。映画不況の一因は、そもそも新作の存在自体が知られていないこと。いくら人気俳優が宣伝しても、娯楽が増えすぎたためにマスに届かない。そんななか、業界の掟をやぶって過剰露出状態になったティモシーは、激しい論争を巻き起こすことでSNS世代の関心を引き寄せてみせた。

 インフルエンサーのような話題集めを行ったティモシー・シャラメだが、それでも俳優だ。じつは、今回の「キャラ変」は、一種の演技でもあった。『マーティ・シュプリーム』で演じた主人公自体が自信過剰な野心家なのだ。本人いわく、メディアで見せたオラオラ系の言動は「役と自分の両方」が混ざり合っている。

キャリア最大の「失言」のゆくえ 

 ただし、キャリア最大の失言インタビューも、リスキーな挑戦のなかで起きた。トークセッションで「映画文化存続」の重要性について語っていたティモシーは、一方で、今日の情報環境でちゃんと魅力が伝わったヒット作には観客が集まっていることを指摘。映画制作と宣伝に励む若手としてこぼした。「バレエやオペラみたいに、必死に頼まなくちゃいけないのは嫌だ。『この文化を存続させて! 誰にも関心を持たれてないけど…』みたいな」。 

 本人もすぐに失言したことに気づき、それぞれの芸術に携わる人への敬意を述べたが、そのあとはジョークでお茶を濁そうとした。

 補足すると、バレエやオペラはパトロン文化が強く、多くの米国の団体が巨額寄付や公的補助に支えられて活動している。ティモシーの地元で財政難に陥っているMETの場合、実業家のイーロン・マスクや、同性愛を処罰対象とする国家に接近したことで物議を醸している最中だ。

 バレエダンサー家系で経済的に苦労してきたティモシーにも思うところがあったのかもしれないが、それでも失言は失言だ。この発言の切り取り動画が拡散された結果、世界中のバレエやオペラ関係者、さらに映画界からも大きな反発を集めた。

 渦中のイベントで、対談相手だった先輩俳優マシュー・マコノヒーは「ネタをバラしてはいけない」と助言していた。うまくいっていても、なにかを言葉にした瞬間「魔法」が解けてしまうこともあるのだと。

 大きな成功と失敗を犯したティモシー・シャラメの「魔法」は、これからも続くのか。映画界のひとつの指標となるだろう。