【KEY WORD:18歳選挙権】

 選挙に投票できる年齢が20歳から18歳に引き下げられることになりました。これは太平洋戦争が終わった年、それまで25歳以上の男性にしか認められていなかった選挙権を20歳以上の男女に改正されて以来といいますから、なんと70年ぶりの改正になります。

 世界的に見ると、18歳で選挙権を与える国は世界の圧倒的多数のようです。昨年、国立国会図書館が調べたところ、191か国のうち9割以上だったとか。中には中南米諸国やオーストリアなど、16歳から選挙権のある国々もあります。今回の年齢引き下げ、世界の標準に合わせるという点でも妥当な改正だと言えるでしょう。

 この引き下げについて、「いったい何歳から大人と見るのか」という議論も起きています。選挙権年齢は18歳に引き下げられましたが、たとえば親権の及ぶ範囲などを規定した民法の成人の年齢は20歳のまま。また酒やタバコが楽しめるのも相変わらず20歳からです。

 とはいえ、必ずしも「大人になったから選挙権を与える」という考え方をとる必要はありません。選挙権の年齢引き下げ運動をずっと行ってきたNPO法人Rights(ライツ)代表理事で、最年少で千葉県市川市議を務めた経験のある高橋亮平さんは、大人になるからという観点からではなく、選挙権と教育を合わせて考えようということを提唱されています。

投票の重要性を学ぶ機会を

 多くの子供は高校時代までは地元で過ごしますが、高校を卒業すると就職や進学などで地元を離れ、独り暮らしする人も少なくありません。そうなると「選挙に行く」というモチベーションが下がってしまいがちであるということがあるようなんですね。親と同居し高校に通学していると、両親や先生から「投票は国民の義務なんだよ」「自分の権利をきちんと使わなければ」と教えられ、投票ということがどんなに重要なことであるかを学ぶ機会が増えるということです。

 実際、選挙権年齢を18歳にしているヨーロッパでは、10代の投票率の方が20代よりも高いという数字が出ています。そしてこの数字は親との同居率との相関関係が高く、つまり投票率が高い親の世代の影響によって投票参加の圧力が高まるということが実証的に証明されているんですね。日本でも同じような傾向が期待できます。

 Rightsの高橋さんは、たとえば高校の生徒会活動といった共同体運営の学びを総選挙などの投票に結びつけていくことによって、10代の若者たちが政治にどう向き合うかを実地に学べるような方向性を期待されているようです。これはとても大事な視点だと私も思います。

 「大人になったから選挙権」ではなく、「子供のうちから選挙権」という考え方で、高校教育や家庭教育によって政治意識を高めていくという方向性が期待されていると言えるでしょう。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2015.06.26(金)
文=佐々木俊尚