生身の人間から生まれる温度を届けたい
――今年6月には、還暦記念のフォトブック『awai 刹那と永遠のまにまに』を刊行されましたが、短歌はまさに「刹那と永遠のまにまに」生まれるものかもしれませんね。名だたるクリエイターが集結した『たとへば君』のポスタービジュアルも斬新です。舞台のポスターには珍しく、本木さんと森口さんの姿が二重になっていますね。
アートディレクターの方が原作も読み、永田夫妻の在り方に感動して、ニュアンスにもこだわって制作してくださった世界なんですが、重なり合って、一体となってるような、でも掴めない、届かないような……お二人の関係を象徴したものになっています。実はこの写真、あとから合成したのではないんですよ。スタジオで私と森口さんが、舞台上に立つみたいに隣に並んで、それぞれ気持ちの赴くままにポーズを取り、一台の特殊なカメラで瞬時に重ね合わせているんです。出たとこ勝負のライブ撮影で生まれた奇跡的な一枚なんです。
――1988年にシブがき隊を解散、22歳で事務所を退所して最初に出演した映画が故・五社英雄監督の「226」でした。当時の現場はスモークひとつとっても、わざわざ炭を焚くような人力と手間をかけたアナログの極致でしたが、十年前の対談の中で、本木さんは、技術の進歩が映像の制作現場やクリエイティブに与える影響を当時から気にかけていました。今、AIが目覚ましい進歩を遂げ、クリエイティブを脅かしていると言われますね。
私は未だにデジタルに疎く、家でスマホの操作も子供たちに教えてもらっているくらいですが、好奇心の強い人は、AIを使ってどんどん新しいことを考えていますよね。あまりにリアルな仕上がりの映像に、自分は簡単に騙されるタイプですが、AIの可能性を突き詰めていくと、逆に「これだけは、生身の人間からしか生まれない」というものも見えてくると思うんです。今回の朗読劇は、その最たるものです。小さな劇場での一期一会。映像で残すものではないので、ぜひ、劇場に足を運んで、生の美しい音楽と朗読に触れていただけたらと思います。
先日の読み合わせの時に、演出・脚本の星田良子さんからは、客観的になり過ぎずに「我がこと」として、泥臭く、愚直に演じてほしい、と言われました。まだまだこれからたくさんのハードルが待ち受けていると思いますが、観てくださる皆さんと心を通わせ、もっと丁寧に毎日を生きてみよう、隣にいる人を大切にしよう、と思えたり、何か温かいものが心に流れこんでくるような時間をお届けできたらと思っています。
「私にも本音を隠してしまうナイーヴさがある」本木雅弘が朗読劇で手繰り寄せる、四十年の恋歌に宿る“人間と夫婦の本質”
*朗読劇「たとへば君 四十年の恋歌」2026年10月28日(水)~11月4日(水) 会場:新国立劇場 小劇場(お問合せ:アーティストジャパン03-6820-3500 平日11:00~18:00)
本木雅弘(もとき・まさひろ)
1965年12月21日生まれ、埼玉県出身。1982年「シブがき隊」のメンバーとしてデビュー。解散後、映画『シコふんじゃった。』やNHK大河ドラマ『徳川慶喜』などで主演を務める。2008年公開の主演映画『おくりびと』で米アカデミー賞外国語映画賞をはじめ国内外の賞を多数受賞。今年、還暦記念フォトブック『awai 刹那と永遠のまにまに』を発売。
朗読劇「たとへば君 四十年の恋歌」
2026年10月28日(水)~11月4日(水)
会場:新国立劇場 小劇場
出演:本木雅弘 森口瑤子
原作:河野裕子・永田和宏著『たとへば君 四十年の恋歌』(文春文庫)
上演台本・演出:星田良子
音楽:中村匡宏
演奏:西尾周祐(ピアノ)、中西哲人(チェロ)
企画協力:文藝春秋
企画・製作 アーティストジャパン
https://artistjapan.co.jp/ajrt_tatohebakimi2026/
