10月28日に新国立劇場小劇場で開幕する朗読劇『たとへば君 四十年の恋歌』に主演する本木雅弘さん。これが実に31年ぶりの舞台出演となり、朗読劇は初挑戦だ。

 与謝野晶子以来の天性の歌人といわれ、上皇后美智子さまもその歌を深く愛した河野裕子さんと、細胞生物学者にして歌人でもある永田和宏さん夫妻。

 その出会いから別れまでを、生涯にわたって詠み合った相聞歌とともに描いた『たとへば君 四十年の恋歌』河野裕子・永田和宏著(文春文庫)を原作とした舞台で、ピアノとチェロの生演奏をバックに本木さんは永田さんを演じ読む。

 27歳の時のインドの旅で死生観に大きな影響を受けた本木さん。のちに映画「おくりびと」が生まれるきっかけとなるが、その本木さんの死生観の輪郭を辿ると妻・内田也哉子さんや義母・樹木希林さんとの関係性も浮かび上がってきた。

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たとへば君 四十年の恋歌

定価 880円(税込)
文藝春秋
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樹木希林さんを看取って

――樹木希林さんは、昔から誰かが亡くなると、「人の死というものもきちんと見ておきなさい」とひとり娘であり、本木さんの奥様でもある内田也哉子さんにおっしゃっていたそうですね。

 きっと、死も日常なのだと伝えていたのだと思います。私自身、人が命を終えていく瞬間を目の当たりにしたのは、樹木さんが初めてでした。「命が消えていく」ということはこういうことなのか、と教えてもらった気がします。もう言葉は発することができず、呼吸はかろうじて残っている状態でも、家族が声をかけると、握っている手がキュッと反応するんです。よく五感の中で聴覚が最後まで残っているといいますが、ああ、やはり聞こえているんだと思いました。

 一方で、目の前に肉体はたしかにあるのに、確実に、今すーっと、魂がこの世界から静かに退場していってる、と感じたんです。たぶん私は、まだ本当の意味で相手を亡くす恐怖や、自分の死を宣告されるという経験がないからだとは思うんですけど、死ぬときは一人で死にたいって思ってるんです。誰にも知られず、大木の根元で……というのが理想。皆に囲まれて「死なないで!」と感情を揺さぶられながら死ぬよりも、一人で静かにそっと消え入りたい。大人気ない空想ですが、いまだにそう思ってるんです。

 でも、『たとへば君』を読んで、ふと思いました。仮に大木の根元で、誰にも看取られずに死んでいったとしても、きっと、そこにはいない人たちの声が聴こえてくるんじゃないか、って。おそらく走馬灯のように浮かぶのは他者といた時間なのかもしれないと。

――なるほど……。河野さんは歌壇に旋風を巻き起こしながらも、実生活では家族の食事の世話をすることを生きがいにしていて、二人の子どもたちにも惜しみない愛情を傾けました。生前は台所の食卓で歌をつくっていたそうですが、生活に根差した歌が多く、長男の淳さん、長女の紅さんも歌人という歌人一家です。也哉子さんも三人の子どもを育てながら、エッセイストなどとしても活躍、長男のUTAさんはNetflixの「ガス人間」でガス人間役を見事に演じ、話題となりました。

 河野さんが何気ない日常を詠んだもののなかには<じやがいもを買ひにゆかねばと買ひに出る この必然が男にはわからぬ>という歌があり、永田先生は<「この家にあなたは住んでいない」と不意にしずかな声に言いたり>と詠んでいます。……気まずい情景が浮かびますね(笑)。

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