京都御所・京都御苑
『八月の御所グラウンド』の舞台でもある京都御所は、個人的にも思い入れのある場所です。呼称にすこし混乱があって、本来御所とは、天皇の住まいだった建物と敷地を指します。その周囲の公園部分は京都御苑なので、「御所グラウンド」と呼び習わされている場所も、本当なら「御苑グラウンド」となりますね。
広い御苑は散歩するも良し、広場でキャッチボールするのも良し。初めて訪れたのは大学入学した年の5月、学部ソフトボール大会に参加したとき。この会場が御所グラウンドでした。最初に開催地を聞いたときは「え、御所でやるの?」とびっくりしましたが、以来、スポーツ行事で集まるときにはしばしば御苑を利用することになり、当たり前の存在になっていきました。
古来天皇の住まいだった土地の由来を考えれば、一般の利用を受け付けないエリアであっても不思議ではありませんよね。けれど京都御所は古くから、周りの住民との境界が曖昧な存在だったようです。
織田信長が京都へ来るまでは荒れ果てていて、近くで戦があるたび住民は、家財道具を御所に投げ込んで逃げたといいます。「とりあえず御所だけは燃やされへんやろうから、戦が終わったら取りにいけばいい」と思われていたのでしょう。
昭和の戦後まもない時期も、御所のあちこちに無断で畑が作られていたと聞きました。いま野球用施設があるのも、戦後に皆が勝手に野球をしていたところ、そのままなし崩し的に使われるようになった由来があるようです。
御所はもちろんのこと、京都ではどの土地も、歴史が積み重なってできています。これは小説の舞台とするうえでは、たいへんありがたいこと。私のデビュー作『鴨川ホルモー』は、京都市内の大学サークルが、「オニ」と呼ばれる式神を操る競技で争う話でした。「そういうこともあり得るか」と読者に感じてもらうため、由来や理屈を考え出すのはたいへんですが、「京都で千年前から続いている」と書けばすんなり納得してもらえたりします。
『八月の御所グラウンド』でも、グラウンドで草野球の試合をするごとに不思議なことが起こります。「あそこなら何があってもおかしくない」と思わせる場所柄が、ストーリーを支えてくれています。
京都の持つ強い「場の力」に、いつもおんぶにだっこの私です。

八月の御所グラウンド (文春文庫 ま 24-9)
2026年8月5日
定価 781円(税込)
文藝春秋
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万城目 学(まきめ・まなぶ)
1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。2006年に『鴨川ホルモー』でデビュー。同作の他、『鹿男あをによし』『偉大なる、しゅららぼん』『プリンセス・トヨトミ』が次々と映像化されるなど、大きな話題に。その他の小説作品に『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『とっぴんぱらりの風太郎』『悟浄出立』『バベル九朔』『パーマネント神喜劇』『ヒトコブラクダ層戦争』『八月の御所グラウンド』『ホルモー燦燦』など、エッセイ作品に『べらぼうくん』『万感のおもい』などがある。
