「B.C ビューティコロシアム」から20年以上を経た時代の変化
美容医療を取り巻く価値観の変化を振り返るうえで補助線となるのが、2000年代初頭に大人気を博したバラエティ番組「B.C.ビューティー・コロシアム」です。劇中で遠山凜の父親であり、「神の手」と呼ばれる名医・新(渡部篤郎)が出演していた番組の元ネタともいえます。
あの番組の定番は、容姿によるいじめや失恋といった深いトラウマの告白でした。当時はまだ整形に対する心理的ハードルが高かったため、「これだけ過酷な苦痛を味わったのだから、顔を変えて救われてもいいはずだ」という、世間を納得させる“免罪符”が必要だったのです。
ドクター陣の品評を経てOKが出ると、奇跡の大変身。術後の痛々しい回復期間はきれいにカットされ、完璧にヘアメイクまで施された相談者がスモークの中から現れる「劇的ビフォーアフター」にお茶の間は拍手喝采しました。
あれはまぎれもなく、「不遇な主人公が美を手に入れて人生をリセットする救済劇」でした。しかし、「ダウンタイム」が描く令和の現実はまったく異なります。ドラマの患者たちを見ればわかるように、悲劇のトラウマなど提示しなくても、誰もが当たり前にクリニックのドアを叩く日常が広がっています。
街を歩けば「二重埋没が今だけ実質◯◯円」「バーキン買うなら豊胸しろ」といった刺激的な広告が溢れています。スマホを開いても同じです。私たちは知らず知らずのうちに、街中やタイムラインから「あなたの顔は、まだもっときれいになれますよ(=現状は未完成ですよ)」と囁かれ続けています。
さらに最近気になるのが、新しい「美容用語」の増え方です。「人中短縮」「中顔面短縮」「バッカルファット」……医学の専門書に並ぶような言葉が、日常会話の中で当たり前に飛び交っています。
でも、少し立ち止まって考えてみてください。「鼻の下が数ミリ長いと老けて見える」なんて話、トレンドとして話題になる前に気にしたことがあったでしょうか。
ドラマ「ダウンタイム」でも、まさにこの現象が生々しく描かれています。クリニックを訪れる患者たちは、最初から明確な意志を持っている人ばかりではありません。SNSで話題のワードを握りしめ、どこか不安そうに鏡を覗き込む。彼女たちの悩みに輪郭を与え、背中を押しているのは、自分自身の本来のコンプレックスというよりも、タイムラインで知った「新しい美の規格」なのです。
