「ジャガイモ」と「青い地球」が登場しない理由

――史実や文化の正確さを追求する一方で、アニメーションとしての飛躍や演出の自由さとのバランスを取る難しさについては、どのように向き合われたのでしょうか。

 その時代・その土地に「存在しないもの」をいかに描かないか、という点には細心の注意を払いました。無意識のうちに現代の感覚を持ち込んで描いてしまいそうになる瞬間があるんです。例えば、代表的なのが「ジャガイモ」です。現代の私たちは食卓にあるのが当たり前だと思ってしまいますが、13世紀のユーラシア大陸やペルシアには、南米原産のジャガイモはまだ届いていません。そういった、当時存在し得ない動植物や食材を画面に紛れ込ませてしまわないよう、徹底的に確認しました。また、舞台となるイスラム・ペルシア地域では「木材が極めて貴重である」「水資源が限られている」といった地理的・環境的な制約があります。もちろん、演出上の必要性から理由づけをして創作として描いた部分もありますが、観てくださる方に不自然な違和感を与えないよう、常に気を配りながら画面を構築していきました。

――本作は知恵や知識が武器となる物語です。キャラクターたちの思考や知識のひらめきを、映像や音響でどのように表現しようと試みましたか?

 キャラクターたちが持っている知識の範囲を超えない、ということは強く意識していました。例えば、主人公のシタラが書物を読み進める中で、天文学や世界の広大さを知っていく象徴的なシーンがあります。ですが、13世紀を生きる彼女は、夜空に浮かぶ星を見ることはあっても、現代の私たちが知っているような「漆黒の宇宙空間に浮かぶ青い地球」といった科学的な宇宙のビジュアルを知るはずがありません。ですから、そうした現代的な宇宙のイメージ映像を安易にインサートすることは避けました。あくまで彼女自身の目で見聞きしたもの、彼女が生きている時代の中で認識できている範疇のイメージを用いて、知恵やひらめきを映像化することを徹底しました。

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