およそ2000枚に1枚! フランス在住のアール・ブリュット作家が完成させる作品
轟修杜(28)は、ひらがなやカタカナ、アルファベット、数字などを用いてカラフルで独創的な絵画を生み出す、気鋭のアーティストだ。パリ生まれ、現在はパリ郊外に暮らし、日本とフランスを行き来する。既存の美術潮流や流行にとらわれず、自身の内側から湧く衝動のまま表現されたアート作品、アール・ブリュットの殿堂といわれるパリのアールサンピエール美術館の書店で個展を開催し、NHKほかテレビ番組でも取り上げられるなど、その活躍ぶりが注目されている。
世界と繋がる「もうひとつの言語」。アーティストが自らの発達障害を作品に昇華
もともと轟氏は言葉によるコミュニケーションが難しく、3歳の頃、「自閉的傾向の発達障害」と診断された。小学校入学後も筆圧が極めて弱く、10歳頃まで鉛筆を十分に握ることができなかった。創作のきっかけは、大好きだった「歌」だった。「絵描き歌から始めてみよう」という母のアドバイスのもと、音楽教師と取り組み始め、描くことの楽しさを知り、やがて紙だけでなく、壁やシーツなど空白を見つけては夢中で描くように。言葉による表現が難しかった彼にとって、画は世界と繋がるための「もうひとつの言語」。誰かに合わせるためではなく、自分の感覚を信じて描き続けること。それがアーティストとしての原点となった。
作品を制作する際は画材にこだわらない。身近な道具を用い、なかでも最も好むのはどこのスーパーマーケットでも購入できる水性カラーペンとA4のコピー用紙だ。ただ、制作途中で少しでも納得がいかなければ、新しい紙に最初から描き直す。その繰り返しで完成する作品は、およそ2,000枚にたったの1枚。現在はA3サイズの作品にも取り組み、40cm四方のキャンバス作品も描く。今回、この大型作品が8月に京都・仁和寺で特別に公開されるが、それぞれ異なる時期に描かれたキャンバスをひとつの作品として繋ぎ合わせられた。制作時期は違っても、不思議なほど自然にひとつの世界を描き出し、新たな表情を生み出している。
母・都さんは、かつて息子の障害に悩んだ時期もあった。「発達障害は、よく“凸凹”と表現されます。何かに秀でている一方で、苦手なことや、平均よりもゆっくり成長する部分がある。息子が幼い頃、凹んでいる部分を少しでも平均に近づけましょうとさまざまなアドバイスを受けてきました。目標は、自立。そんななか、2024年に東京・根津のギャラリーで個展を開催した際、息子の画から感じたものを、音楽家がその場で音にする即興演奏会を行いました。息子の画を見て、音楽家が感じたものを音にする。その音を受け取った息子が、嬉しそうに身体を揺らす。画が音を生み、音が新たな表現を生み、その場にいる人たちの心へと広がっていく。その光景を見ながら、私はふと気づきました。自立とは、身の回りのことをこなすことでも、できないことをすべてできるようにすることだけではない。本人のやりたいことを自分で見つけ、自分の力で広げていくこと。“自己実現力”こそ本当の自立だと気づいたのです」。
今回の特別展でも音楽イベントが開催される。轟氏の作品から感じ取った世界を、打楽器とヴィブラフォンによる即興演奏で表現する内容だ。作品から感じたものを音楽家がその場で即興演奏し、轟氏が見守る。画が音を生み、音が新たな表現を生み、その場にいる人たちの心へと広がっていく。そんな言葉を超えた、不思議な一体感を感じられる貴重な機会だ。
「無限の可能性 轟 修杜 アール・ブリュット展」
〜10歳までペンを持たなかった彼の「無限の可能性」の世界が生み出した色彩の宇宙〜
■会期 2026年8月1日(土)〜8月9日(日)
■時間 9時〜17時(最終受付は16時30分まで)
■会場 真言宗御室派総本山仁和寺・白書院
■住所 京都府京都市右京区御室大内33
■電話 075-461-1155
■入場料 仁和寺御所庭園の拝観料で鑑賞可。拝観料は大人800円
「轟修杜の画から感じる即興演奏会 Vol.3」 ※予約制
■日時 2026年8月1日(土)・2日(日)
■開演時間 17時(最終受付16時30分まで)
■会場 上記展覧会と同じ、真言宗御室派総本山仁和寺・白書院
■奏者 谷本麻実(打楽器)、芦田かんな(ヴィブラフォン)
■入場料 大人1,000円
■予約・問い合わせ shuto.todo@gmail.com
