詩人に愛されたリスボンの名店へ
ポルトガルでは学校教育で必ずといってよいほどペソアの作品を学ぶ。書店へ行けば彼の作品が彼への敬意と愛情を示すかのように丁寧に並べられている。
ペソアがポルトガル人を魅了する要因はいくつもある。たとえばそれは、作品における時間の不在である。
ペソアと異名の作品の多くはそれらが書かれた時代を明確に特定するような背景や要素を持たない。そのため、いつの時代の読者にとっても「今を表現した」作品として読めて、世代を越えて届くのだ。
作品の多様さも魅力のひとつだ。読者は、ペソアの詩だけでなく、異名(例えば、自然派詩人アルベルト・カエイロ、古典派詩人リカルド・レイス、前衛詩人アルヴァロ・デ・カンポス、散文家ベルナルド・ソアレス)の作品を個々に楽しむこともできるし、あるいは、劇の登場人物のごとくペソアの表現世界に配置された異名の作品を、ペソアの作品と合わせて全体的な表現として楽しむこともできる。
そして、おそらくこの詩人がポルトガル人の琴線に触れる一番の理由が、ペソアがポルトガル語という「言語」の中に己のアイデンティティを見出していることだ。ペソアにとって、ポルトガル語で考え書くという営為こそが自身の存在証明であり、自らの在りかはポルトガル語で書かれた「作品の中」にあるのだ。
異名・ソアレスはこれを「私の祖国はポルトガル語です」と表現した。そしてペソアと同じく、ポルトガル語で思考し表現することの中に自己を見出したポルトガル人たちは彼の作品に深く共鳴し、やがてペソアを「国民」詩人と呼ぶようになったのだ。
Livraria Bertrand(ベルトラン書店 シアード本店)
「世界最古の書店」で耽溺する詩の世界
リスボンの文化的拠点が数多くあるシアード地区。その石畳の坂道に、1732年の創業以来、誇りを守り続けてきた場所がある。ギネス世界記録にも認定された世界最古の書店「ベルトラン」本店だ。一歩足を踏み入れると、アーチ状の天井と深い木の香りが漂う迷宮のような空間が広がり、詩や小説から絵本まで、全ジャンルの書籍が並ぶ。詩集の棚が多いのが特徴で、ポルトガル文学を象徴するルイス・デ・カモンイス、フェルナンド・ペソア、ジョゼ・サラマーゴらの作品を多く取り揃える。店内の一部は歴史的遺産として保護され改装は一切許されず、かつて作家らが文学サロンとして議論を交わした当時の気配が残る。書店員と対話しながら、日本ではなかなかお目にかかれないポルトガル文学の「人生に寄り添う一冊」を選ぶ楽しみを味わいたい。
所在地 Rua Garrett 73-75, chiado, Lisboa
電話番号 210 305 590
営業時間 9:00~22:00
定休日 無休
https://www.bertrand.pt/
CREA Traveller 2026年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。
