久しぶりの俳優業にも挑戦した『FORMA フォルマ』

――では『FORMA フォルマ』は、どのようにして脚本を書かれていったのでしょうか。また、劇中ではヒロインの婚約者役として出演もされていますが、どのような経緯だったのでしょうか?

 はじめに漠然としたヴィジュアル・イメージを提示してもらったうえで、何をやりたいのか、話し合いをしながらプロットを組み立てていって、監督が納得できるものができた時点で、脚本として書き始めました。実は07年には「蜘蛛の巣」というタイトルで暫定的な決定稿が出来ていました。これは黒沢清監督の『蜘蛛の瞳』に影響を受けたところが大きかったんですが、そこからいろいろありまして製作が停滞し、11年のクランクインまで、幾度か動き出したり、止まったりを繰り返していました。そのあいだに坂本監督の気持ちも、僕の気持ちも変化したりして、何回も改稿することになりましたが、最終的には坂本監督の好きなミヒャエル・ハネケ監督の作品寄りになっていったと思います。僕が出演したことに関しては、ほかの作品での僕の演技を監督がいいと思ってくれていたようなんですよ。自分で言うのも変ですが……(笑)。自分で書いた脚本なので、演じやすかったですね。

――クライマックスに展開される24分間長回しは、観る者誰もが圧倒されると思うのですが、どのようにして、あのシーンが作られていったのでしょうか?

 企画段階で、坂本監督の中に密室で陰惨なことが起こるという漠然としたイメージがあって、それをもとに何十回も書き直しましたね。ワンカットワンシーンで撮ることは、お互いなんとなく感じていましたが、僕自身はあのシーンがリアルに描かれないと、この映画は失敗するとまで思っていたので、だからこそ、途中までの流れは脚本通りで、その後は即興芝居に変えませんか、と坂本監督に提案したんです。とはいえ、何を喋ってもいいわけでなく、言ってほしいセリフと背景と設定を役者さんに与えて、あとは自由に演じてもらう感じでした。

――その結果、東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門作品賞をはじめ、ベルリン国際映画祭フォーラム部門国際映画批評家連盟賞、香港国際映画祭ヤング・シネマ・コンペティション部門スペシャルメンション授与と、次々と世界で高い評価を得ていますよね。

 じつは僕も、日本よりは海外向けの作品なのかな、と思いながら書いていたんです。それに長年、監督は頑張ってきたし、作品が出来上がってもなかなか認めてもらえなかったことも知っているので、とても良かったと思います。ただ、僕の正直な気持ちを言わせてもらうと、映画界全体にいえることなんですが、映画で評価されるのは現場を仕切った監督のみで、物語の根幹を作ったというか、設計士でもある脚本家の存在があまりにもないがしろにされているように感じます。脚本家が演出家より注目されるTVの世界とはまったく逆なんですよね。そういう意味での複雑な気持ちはあります。

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2014.08.08(金)
文=くれい響
撮影=鈴木七絵