自身が関ジャニ∞安田主演作のモデルに!?
――その『蹉跌』では、07年の「ふかやインディーズ・フィルム・フェスティバル」でグランプリを受賞しますが、その後は監督作品もオリジナル脚本も発表しなくなってしまいます。それはなぜでしょうか?
監督はいろいろ準備が大変ですし、なかなか世に出るのが難しいと思っていました。脚本家は原稿用紙とペンというか、パソコン一台あれば書けますし、まずは脚本家として世に出られたらいいという気持ちでいたところ、坂本さんや吉田さんらと出会い、お二人が脚本家としての自分を必要としてくれた感じです。もちろん、自分もお二人のような人たちと仕事をするなら、「脚本作りが、お役に立てるかな」と思ったことも大きいです。その後、ほかのところからも仕事が来るようになっていたので、オリジナルを書くのは一旦お休み、というつもりで、そのまま何年も経っていました。
――そんな“脚本を書かない脚本家”というのは、昨年公開された吉田監督の『ばしゃ馬さんとビッグマウス』で、関ジャニ∞の安田(章大)さんが演じた主人公・天童のモデルになりましたよね。
あの役は「オリジナル脚本を書くと言って、まったく書かない」「根拠のない自信がハンパじゃない」「ぺーぺーのくせに、まるで巨匠であるかのような偉そうな発言をする」など、僕のアホでクズな側面に、吉田監督がデフォルメを加えて作り上げたキャラクターだと思っています。僕自身は短編だったり、共作なりで少なくとも脚本は書いていますから(笑)。
――ちなみに、『机のなかみ』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』、そして堀北真希さんが主演した『麦子さんと』といった吉田監督との共同脚本作は、どのようにして作られていったのでしょうか?
『机のなかみ』は僕が吉田さんの家に行って、二人で話し合いながら僕がキーボードを打っていましたね。『ばしゃ馬さんとビッグマウス』のときは吉田さんが書いたプロットを元に僕が第一稿を書いて、それを手直ししていきました。『麦子さんと』は5年ぐらい死ぬほど打ち合わせして、いろんな意見を出しましたけれど、僕は一文字も書いていないんです。でも、打ち合わせ段階で、吉田さんから「脚本協力じゃなくて、共同脚本ということでいきます」と言われました。そのときは、吉田さんが打ち合わせでの僕の貢献を認めてくれたようで嬉しかったです。僕の役割はアイデア出しというよりは、カウンセリングというか、脚本にいろいろ疑問をぶつけることで、吉田さんの中でモヤモヤしているものをハッキリさせていくことだと思っています。『FORMA フォルマ』での坂本監督のときもそうだったんですが、監督がどんな作品にしたいかを理解できないかぎりは、脚本を書くことはできないんですよ。
2014.08.08(金)
文=くれい響
撮影=鈴木七絵