佐井 有名なのはドラマ「ありがとう」で水前寺清子さんを主役にしたキャスティングです。音楽番組で水前寺さんを見た先生が「あの子がいい」と直感し、所属事務所に断られても諦めず、何度もトイレで待ち伏せして直談判したそうです。「絶対にこの人で、この物語をやりたい」という熱量が、56.3%という驚異的な視聴率にもつながったのではないでしょうか。「ありがとう」にも出演していた石坂浩二さんの抜擢や、後年では「渡鬼」でのえなりかずきさんを見出したセンスからも、石井先生の目の確かさを感じますよね。
「世界最高齢の現役プロデューサー」が残したテレビドラマの原点
――ドキュメンタリー制作を通して、「世界最高齢の現役プロデューサー」の言葉をどのように受け取りましたか。
佐井 新作舞台の稽古場にお邪魔した時も出てくる話は「あのドラマの続編を作りたい」といった「次回の話」。かつて「電気紙芝居」と揶揄されたテレビというメディアで、ホームドラマというジャンルを定着させたプロデューサーの熱量というのは凄まじいものがありますね。
その熱量というのはやはり「心のドラマ」、テレビで安心してみていられるホームドラマは古びないという信念に根ざしていると感じています。
コンテンツ産業というのは斜陽になると刺激的な方向に向かいがちで、かつて映画が斜陽になった際には日活がロマンポルノに活路を見出し、東映は実録ものに舵を切りました。今現在で言えば、テレビ自体が斜陽と見なされ、地上波でできない刺激的なコンテンツが配信系の主流となっています。
ただこうした流れの中でも、テレビドラマには「お茶の間のみんなが観ている」ヒット作が生まれるもので、最終的にはそれは人間味のあるドラマ、なのかもしれません。その先駆者である石井ふく子というクリエーターが残したテレビドラマの原点に接することができる、貴重な映画祭にしたいと思っています。

