そしてエレベーターはついに…

 その場から逃げ出したFさんは、自室に戻るやノイズキャンセリング機能の付いたイヤホンを耳に詰め、冷蔵庫の中に入れておいてビールを3缶ほどがぶ飲みし、スマホで動画を流したままベッドに潜り込んだそうです。

 心臓がバクバクと鳴り響いていたそうですが、アルコールが徐々に効いてきたのか、しばらくすると眠りに落ちてしまいました。

 ウゥゥーーーン……ガコン。

 あの音で目が覚めたのは、いつものように夜中の3時過ぎでした。

 イヤホンは付けたままで、動画も流れたまま。なのに、なぜかエレベーターの稼動音は聞こえてくる。その事実がFさんを恐怖に陥れました。

 ウゥゥーーーン……ガコン。

 ポーーーン……。

 エレベーターの停止音が鳴り響いたのは、間違いなく3階でした。

 ガーーッ……。

 鈍く動くエレベーターのドア。

 カッカッ…コッ…チリン! カッカッ…コッ…チリン! カッカッ…コッ…チリン!

 そのおぼつかない足音が聞こえてきた時、Fさんは息が詰まるような恐怖を感じました。

 その足音は、Fさんと同じ鈴の付いた杖をついて歩く音だったのです。

 あの日、エレベーターが使えないことを伝えながら、不動産屋が申し訳なさそうに目線を送った鈴の付いた杖。

 生来のハンデを支えてくれている杖と聞き慣れた鈴の音が、薄暗い廊下の向こうから自分ではない誰かによって鳴らされている。

 カッカッ…コッ…チリン!

 不可解な足音は隣の部屋に入っていくと、ガチャリと鍵を閉める音を鳴らしたのを最後に、ぷつりと聞こえなくなりました。

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