雪女、耳なし芳一、ろくろ首…『怪談』の誕生

 こうして紡ぎ出された「雪女」や「耳なし芳一の話」のほか、東京の赤坂・紀伊国坂でのっぺらぼうが暗躍する「むじな」、八雲が松江で聞かされた妖怪伝承を原話にした「ろくろ首」といった 編を再話作品としてまとめ、これにエッセー2編に「虫の研究」をあわせた作品が『怪談』です。1904(明治37)年4月に刊行されました。来日第十作となり、代表作となりました。

 文体としてはシンプルで読みやすく、心に響くものになっています。『知られぬ日本の面影』の頃など、かつては修飾の目立つ文章を書き連ねていました。それはそれで美しく仕上がっているのですが、作家として経験を重ねるうちに、単純な言葉遣いで描写した方がよく伝わる、と思い至ったようです。

 再話文学としてはドイツの『グリム童話』がよく知られていますが、『怪談』も世界文学史上に残る作品と言われています。これをもとにした本はフランス語やドイツ語といった言語だけでなく、カタルーニャ語やイヌイット語などマイノリティー言語の本も刊行されています。

小泉 凡(こいずみ・ぼん)

1961(昭和36)年、東京都生まれ。成城大学大学院で民俗学を専攻し、87年から曽祖父・小泉八雲ゆかりの松江市で暮らす。小泉八雲記念館館長、焼津小泉八雲記念館名誉館長、島根県立大学短期大学部名誉教授を務める。著書に『怪談四代記 八雲のいたずら』(講談社)、『小泉八雲と妖怪』(玉川大学出版部)など。

聞き手 木元健二(きもと・けんじ)

1970(昭和45)年生まれ、大阪府出身。同志社大学法学部卒。94年、朝日新聞社入社。大阪本社学芸部、東京本社文化くらし報道部、週刊朝日編集部(いずれも当時)などに勤務。松江総局に 2021年から3年在籍した。

セツと八雲 (朝日新書)

定価 957円(税込)
朝日新聞出版
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次の記事に続く 【小泉八雲、54歳の死】待望の娘誕生からわずか1年…「...