この記事の連載
永久メイさんインタビュー【前篇】
永久メイさんインタビュー【後篇】
ロシアでは毎日舞台に立つのが基本

――ロシアと日本での“バレエ生活”に違いを感じることはありますか?
私は日本でバレエ団に所属したことがないので日本でのバレエ生活がどのようなものなのかは全く経験がないので比較するのは難しいですが、ロシアでは毎日舞台に立つのが基本です。
私が所属しているマリインスキー・バレエは、毎日舞台があって、毎日違う演目を上演しています。一方で日本を含めたロシア以外のバレエ団では作品ごとにブロックを組んで稽古していく印象があります。
ロシアは舞台に立つ頻度が高いので、当然、練習する機会も多いですし、自然と舞台慣れするというか、実践の場数を踏めるという点では大きな違いがありますね。
――ロシアでの生活で大変だったことは?
やっぱり言葉の壁が大変で、一番苦労しました。バレエ用語は世界共通なので劇場内なら何とかなったとしても、いったん外に出るとロシア語が話せないと生活できません。
最初は、ロシア語で書かれた看板を見ても文字を読めないですし、何屋さんなのかがわからず苦労しました。生活するうえでロシア語を覚えるしかないし、使わざるを得なかったという感じです。毎日の生活の中で自然と覚えていきました。

――マリインスキー劇場ではどのように自身の存在を築いてきたのでしょうか?
特別なことはしていません。良くも悪くも自分のことしか考えずに、ただ、自分のことで精一杯だったというのが正直なところですね。
バレエを学ぶうえでも、私はロシアスタイルのバレエ学校出身ではないので、周りの人たちよりも覚えることが多かったと思います。もしかしたら“外国人だからどうこう”ということを指摘されていたかもしれませんが、そんなことを気にする余裕もなくて、本当に毎日、踊ることだけに必死でした。
――劇場内での人間関係や外国人同士のつながりはありますか?
マリインスキーには現在、私以外にも数人、外国人のダンサーがいます。そうしたメンバーとは自然と話す機会もありますし、コミュニティのような感じで支え合っています。
もちろんロシア人のダンサーとも稽古や舞台では一緒になりますが、彼らはほとんどがワガノワ・バレエ・アカデミーを卒業していて、幼少期から一緒に育ってきた人たちです。小さいときからお互いのことを知っていて、同じスタイルでレッスンをしてマリインスキーのダンサーという“今”がある。
私はそこにあとから入った立場なので、自分の方が彼らのスタイルに合わせるという意識でいました。でも、それを“苦労”だとは感じていないんです。むしろ、マリインスキーで私自身もそのスタイルを習得したいという気持ちのほうが強かったからだと思います。
――マリインスキーのバレエにはどんな魅力があると思いますか?
私がロシアのスタイルに特に惹かれたのは、“上半身の使い方”です。初めてマリインスキーの舞台を観たとき、その美しさに驚き、群舞の一人ひとりまで綺麗だなという衝撃を受けました。
踊っている中心人物だけではなく、手の動きや顔の角度まで整っている。その美しさに感動しましたし、そこに他にはない魅力を感じました。自分もその美しさを表現できるようになりたいと思ったのがロシアのスタイルを習得したいと思ったきっかけでした。
マリインスキー・バレエは世界の5大バレエ団の一つですから、私からすると自分が入りたいと思うことさえおこがましいと思っていたほど絶対に手の届かない、遠い存在でした。
ですから、昔、DVDなどで目にしていたときは、有名なロシアのバレリーナはマリインスキーで踊っている方がもちろん多かったのですが、それほど気にしてはいませんでした。ところが、マリインスキーに入ってからは、あの有名な方達は、私が今居るこの場所で稽古をして、ここで踊っていたんだということを改めて実感しました。
ロシアバレエが好きで、ロシアバレエにしかできない美しさや表現をもっと追究したいと思っている自分が、それができる場とチャンスを与えられているので、これを絶対に逃したくありません。このような歴史ある素晴らしいバレエ団の一員であることに毎日感謝の気持ちでいっぱいです。
》【後篇】「甘いものや和食、日本のお笑いも大好き」バレエダンサー永久メイの“心が休まる”意外な瞬間
永久メイ(ながひさ・めい)
2000年生まれ。12歳の時にユース・アメリカ・グランプリのジュニア部門で1位受賞。2013年にモナコ王立・プリンセス・グレース・アカデミーに入学。15歳の時にマリインスキー・バレエのファテーエフ監督に認められ、国際バレエフェスティバルの『ラ・バヤデール』の舞台に立つ。卒業と同時にマリインスキー・バレエに研修生として加入。2018年にセカンド・ソリスト、2021年にファーストソリストに昇格。2020年『Forbus JAPAN』の「世界を変える30歳未満の30人」、2021年『Forbus ASIA』でも30人に選出された。
東京バレエ団の今後の公演をチェック!
2025年
8/22~8/24 はじめてのバレエ「白鳥の湖」~母のなみだ~
9/20~9/23 「M」
11/2~11/3 「ラ・シルフィード」
11/18~11/24 「ドン・キホーテ」
https://www.nbs.or.jp/stages/stages-index.html

2025.07.16(水)
文=山下シオン
撮影=深野未季