自家農園の無農薬野菜と発酵調味料を使った、腸にやさしい玄米菜食の夕食

この宿の食へのこだわりはすごい。和牛ステーキやお造りといった、いわゆる温泉旅館で出される会席料理とはまったく異なり、夕食は厳選した素材を使った玄米菜食だ。
まず、野菜の種類の豊富さに驚かされる。「畑のごちそうサラダ」には、紫にんじんやわさび菜、ブロッコリー、紅芯大根、イタリアンパセリ、ケール、水菜、キャベツ、ルッコラなどがたっぷりと盛られている。ドレッシングも自家製の豆乳ドレッシングだ。
にんじんは紫にんじん、白にんじん、金時人参など、大根も紅芯大根や練馬大根など、年間を通していろいろな種類の無農薬野菜を自家農園で栽培している。さらに、スーパーフードとして知られるモリンガやフィンガーライムも自家農園のものだ。これらは、支配人兼湯守の米山雄二郎さんが早朝4時30分に起きて畑で摘んできたものである。
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ご飯は無農薬栽培・天日干しの玄米を使った「微発芽玄米ごはん」。メインの「野菜のおでん」は肉や魚は使っていない。茎ブロッコリー、にんじん、大根、椎茸、かぶ、こんにゃくがゴロゴロ入っていて、よく出汁が染み込んでいる。サイドメニューには、胡麻豆腐、大根の山椒煮、揚げ出し豆腐が並び、どこまでも野菜が主役の献立だ。
野菜は無農薬で採れたてだから味が濃く、料理に使う「生姜麹」「きのこ麹」「醤麹」「塩にんにく」「レーズン酵母の豆乳ヨーグルト」といった自家製発酵調味料が野菜本来の旨みを引き立てている。

赤だしのみそ汁にも野菜がたくさん入っていて、甘味の胡麻のシャーベットには体にやさしいてん菜糖が使われている。動物性食品は出汁に使うかつお節と雑魚のみ。すべての料理が、健康を意識してセレクトされた素材でつくりあげられている。
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米山さんが食に力を注ぐ理由は、「体の免疫には腸が深く関わっている」と考えているから。「腸脳相関といって、食べたものが腸内環境を左右し、脳の働きや精神状態にも影響を与えます。だからこそ、腸が整う食事をすれば、自然と体も健康に向かっていくのです」と語る。そんな宿のスタンスに共感し、月に3回通うリピーターもいるという。


米山さんがここまで健康的な食への知見を持っているのは、彼が農学士であり、大学時代に発酵学やウイルス学を学んだから。日々の好奇心と探究心が料理に生かされ、メニューは今なお進化を続けている。
今後は、かつお節を使わず昆布と椎茸で出汁をとる、ヴィーガン対応のメニューも展開する予定だという。
2025.06.26(木)
文=野添ちかこ
写真=平松市聖