この記事の連載
安藤玉恵さんインタビュー【前篇】
安藤玉恵さんインタビュー【後篇】
「TVタックル」に出ていた田嶋陽子先生を見ながら泣いて拍手した母

――エッセイを書いて、改めて気づいたことはありましたか?
結婚している女性としていない女性では、だいぶ暮らしが違っていたんだなというのを改めて思いました。
父は7人きょうだいの長男で、4人の叔母がいましたが、3人が独身で、自営業をしていて自由だったんです。海外旅行にもバンバン行って、週末はデパートに行ったり、競馬をしたり、夜はスナックで歌ったり。私の相手もしてくれて、焼き鳥屋や映画館、相撲、銀座や軽井沢にも連れて行ってくれました。私も好奇心旺盛なので、誘われるとどこへでもついていったんです。
でも、母や母方のおばたちは商売や子育て、家事などをしていましたから、時間の使い方が違いますよね。
――長男の嫁になったお母様は、商売をしながら大家族の面倒を一手に引き受けてこられた。お身体が強くなく、安藤さんが30代の時に亡くならなられたそうですね。あとがきに、「その死は、結婚というものが女性に与えるよくない面を考えるきっかけになりました」と書いておられます。
母は父と結婚してから、自分のやりたいことは何もできなかったんです。子供の手が離れたらやるつもりだったのかもしれませんが、その頃には体力が奪われて亡くなってしまった。でもこれは、嫁が全てを背負わなければいけなかった、当時の社会システムの問題ですよね。
すごくよく覚えているのは、私が小学生の頃、『ビートたけしのTVタックル』という番組に田嶋陽子先生が出ていて、たけしさんや男性出演者と激しくやり合っていたんです。田嶋先生がフェミニズムの先生とは、当時は知らなかったけれど、母は田嶋先生に向かって「もっと言って!」と泣きながら拍手をしていました。自分たちを代弁してくれていると感じていたのでしょうね。涙ながらに母が拍手していた理由が今はわかります。
そんなフランス婚みたいなことできないよ!

――今よりももっと男社会で、女性はなかなか反論できないような時代でしたよね。
不思議だったのは、母の姉妹たちは結婚して子供を産み、生活に追われて大変そうなのに、みんな「結婚はしなきゃ」と私に言っていたことです。自分たちは苦労をしているのに、なぜ同じ道を勧めるのかなと思っていました。当時は女は結婚して子供を産まなければという価値観だったんですよね。同年代なのに、母方の姉妹と安藤家の姉妹の生き方はすごく違っていました。
――そういう女性たちを見ていて、安藤さんは結婚願望を持っておられたのですか?
どうだったかな? ただ、母は「結婚しなくていいから子供は産んだほうがいい」と小声で言ってました。そんなフランス婚みたいなことできないよ! と思っていましたけど。子供は欲しいと思っていましたね。
――放任主義で育ってこられた安藤さん。ご自身もお母さんになられて、お子さんをどんなふうに育てたいと思われたのでしょう?
私が子育てする時には、自分が育ってきたような環境ではなく、一人で子供を見なければいけなかったので、放っておきたいと思う一方で、どうしたらいいかずいぶん考えました。
大学に行って、いろいろな学生たちを見た時に、幼少期の体験の差が人格に大きく影響すると思ったんですね。だから、勉強をさせようとは思わなかったけれど、食事と体験はしっかりさせたいと思いました。「食育と旅育」と呼んでいますが、情操教育には体験が何よりも勝るのではないかと。
育児も命懸けで頑張りましたが、やや頑張りすぎて疲れちゃったかもしれないです(笑)。
安藤玉恵(あんどう・たまえ)
東京都出身。早稲田大学演劇俱楽部で演劇を始め、舞台、テレビ、映画で活躍。今後の予定に、Eテレ「100分de名著」(アトウッド著『侍女の物語』『誓願』/2025年6月期毎週月曜22:25~)、「未病息災を願います~かしまし3姉弟より~」(毎月最終日曜日19:00~レギュラー放送)、映画『でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男』(監督:三池崇史/2025年6/27公開)、舞台Bunkamura Production 2025『リア王』(作:ウィリアム・シェイクスピア、上演台本・演出:フィリップ・ブリーン/2025年10月~11月)など。

とんかつ屋のたまちゃん
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幻冬舎
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2025.06.19(木)
文=黒瀬朋子
写真=平松市聖
ヘアメイク=大和田一美
スタイリング=Kei(salon de GAUCHO)