このコラムの打ち合わせの席でも、お二人の編集さんが「まさかこの2社がこんな形で協力出来るとは」みたいな感じで笑っていたのが忘れられません。
新人作家を育てるぞ、という気概を今日まで貫いて下さったこと。13年もの間、一緒に仕事しようと待って下さったこと。ここでは書ききれないほど、会社を越えて応援して頂いていること。現状は、決して当たり前の話ではないと思っております。この場を借りて、本当にありがとうございますと、感謝の気持ちを残させて頂ければ幸いです。
実は『皇后の碧』は、モチーフとしては八咫烏シリーズ第1巻『烏に単は似合わない』と共通する部分があります。美しい女達が妍を競う後宮に、物知らずな女の子が突然入ることになり……というあらすじからしても、八咫烏シリーズ読者の皆様にとってはあまりに聞き覚えのある内容でしょう。
私はファンタジーが好きですし、後宮ものが好きですし、緑色が好きですし、綺麗なお花や石などが好きです。たとえ「また似たような話書いたの!?」と言われたとしても、何度だって、私の満足がいくまで、似たようなモチーフの話を書き続けたいと思っております。
ある意味で『皇后の碧』は、13年の私の経験を全て注ぎ込み、もう一度似たような題材に挑戦した物語とも言えます。どちらが良い悪いではなく、あの頃の私にしか書けなかったものもあれば、今の私だからこそ書けたものもあるはずです。
『皇后の碧』を好きになってもらえるかは分かりませんが、阿部智里という作家に興味を抱き、こんな辺境コラムにまで目を通して下さっている奇特な方にとっては、『烏に単は似合わない』と読み比べたり、八咫烏シリーズの中にも共通する私の好きなエッセンスを見つけたりする楽しみ方が出来るかもしれません。
八咫烏のラストスパートも引き続き頑張って参りますので、どうか『皇后の碧』もよろしくお願いいたします!


阿部智里(あべ・ちさと) 1991年、群馬県前橋市生まれ。早稲田大学文化構想学部在学中の2012年、『烏に単は似合わない』で松本清張賞を史上最年少で受賞。17年、早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く壮大な和風大河ファンタジー「八咫烏」シリーズは現在は第2部へと突入、外伝も含めて『望月の烏』で12冊を数える。24年、吉川英治文庫賞受賞、4月からNHKアニメ「烏は主を選ばない」が放送。ほかの作品に『発現』など。
【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc


亡霊の烏
定価 1,760円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
2025.06.04(水)