まず塩をひとつまみそばにかけて、そばをひとくち。おっ、これはうまいそばだ。加水は少なめでしっかりしたそばである。香りも良い。今日は埼玉県三芳町のそばを十割で打っている。茹で時間は35秒前後。十割でこの細いそばを打つのは難しいだろう。次に辛汁につけて食べてみる。この汁がすこぶるうまい。やや甘めだかキリッとした濃厚なつゆだ。

 あっという間に食べてしまった。食べ終わったざるにはそばの欠片がひとつもない。うまくつながっている証拠だ。店主は手先が器用なんだろう。このそばはかけで食べてもうまいに違いない。またその日によっては粗挽きそばを打つこともあるという。是非食べてみたい。

手打ちそば屋を始めた経緯を聞くだけで酒が飲める 

 食べ終えた頃、立澤さんがホールに出てきてくれたので、どういう経緯で手打ちそば屋を始めたかを聞いてみたのだか、これがまた豪快かつ興味深い。

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 立澤さんは20代半ばまでは、全く別の仕事をしていたという。その会社が合併などでなくなることになり、以前からやりたかったそばの世界に入ったという。しかも、有名店で修行はしていない。

 そば打ち道場に行きノウハウを得て独学で西荻窪に店を出したのが今から12年前のこと。なんとあの超有名店「鞍馬」の3軒となりでスタートしたというからいい度胸だ。あとあと友人からは「なんて無謀なことをするんだ」とずいぶん言われたそうだ。

 西荻窪に5年、そして新井薬師前に来て6年になる。今では手打ちそば屋の中でも一目置かれるまでになっている。

立澤店主はなぜ立ち食いそば好きになったのか? 

 さて、ここからが本題である。そんな、立澤さんが店のインスタに載せている写真は立ち食いそば屋の写真が多い。なぜ立ち食いそば好きになったのだろうか。

 立澤さんは葛飾区出身だ。もちろん、立ち食いそばも大衆そば屋も以前から食べていた。しかし、自分で手打ちそば屋を始めて、蕎麦屋という立場で立ち食いそばを食べてみて、手打ちにない全く別の世界がそこにはあることを初めて認識したというのだ。

2025.05.26(月)
文=坂崎仁紀