相田氏は、作品の感想をこう話した。
相田冬二(以下、相田)「この映画は10分ちょっとの作品が10作入ったオムニバス映画で、それぞれ人間同士の対話が描かれています。夫婦やパートナーも出てきますが、初めて会ったり、違う国から来た異邦人であったり、お互いがお互いのことをあまり分からない、違う価値観を有している人々の対話が描かれている。そして、10のエピソードは非常にバラエティには富んでるけれど、共通した部分もあると思いました。それは出てくる人間同士が対等に描かれているということです。夫婦も出てきますが、抑圧的な関係ではない。とてもフェアネスを感じました」

人気歌手ウー・バイはなぜ起用されたのか
客席からはマーさんに、「台湾でこの映画がどのように受け止められたか」という質問が出た。
マー「面白いのは、この映画を観た後、みんな色々討論をするんですね。どの話が好きだったとか、どれが面白くなかったとか、あるいは、どの人物が好きとか。今日のようなQ&Aもありましたが、たくさんの質問がいつも寄せられました。中でも多いのは俳優について、そして自分の経験に置き換えての感想でした。例えば、10のエピソードのひとつに「若い男女が出会って、『あれ、この人知り合いだったっけな』から始まる話」がありますが、こういうのは結構、いろんな人が実際に経験していることでもあるので、話しやすい。きっとそんな風に映画を観た人が自分自身をどこかで反映しているような人物を見つけられるんじゃないかと思います」
映画にはエピソード間をつなぐ役割としてバイクの新聞配達員が全編に登場しているが、演じているのは台湾のトップ・ミュージシャンであるウー・バイ(伍佰)。その起用の理由について客席から質問が出た。

リム・カーワイ「補足しますと、台湾好きな人はみんなよく知っていると思いますが、ウー・バイさんは台湾ではすごく有名な歌手ですよね。彼の曲はすごく流行ってて、台湾の人は誰でも歌えます。20年前くらいにアクション映画に1本出演したことはありましたが、その後は映画に出ていなかった。今回、新聞配達員で登場したので、とても驚きました」
マー「10本の物語を貫く役としての新聞配達員のキャスティングにはとても悩みました。そしてやはり、この人は台湾を代表する顔を持った人でなければいけないだろうと思ったんです。そこでウー・バイしかいないんじゃないかと。見た目としてもそうですし、その性格的なものも含めて、この人ほど台湾らしい人はいないんじゃないかとオファーを出しました。そうしたら、ウー・バイさんはとても面白がってくれて、是非この役を引き受けたいと言ってくれたんです」
2025.05.26(月)
文=週刊文春CINEMAオンライン編集部