この記事の連載
小林聡美さんインタビュー #1
小林聡美さんインタビュー #2
年齢を重ねて、より作品を理解できるようになった
――『センス・オブ・ワンダー』についてはどんな印象を?
小林 『沈黙の春』が衝撃だったので、ちょっと身構えていたんですが、すごく手ざわりがやわらかい作品という印象があって。
――やわらかい。
小林 そう。このやわらかさには、『沈黙の春』で厳しいことを書いた人だからこその凄みがあるなと思いました。『センス・オブ・ワンダー』は最晩年に書かれたものということですが、虫のことや苔のこと、自然に対する眼差しがすごく繊細で、視野が大きいというか。 レイチェル・カーソンという人のおおらかさを、すごく感じられる作品だなと思います。

――今回、朗読するにあたって読み直されたと思いますが、印象に変化はありましたか?
小林 レイチェルさんがこの作品を書いた年齢に近い今のほうが、彼女が伝えたかったメッセージをより理解できるような感覚はありました。地球環境が変化していっても、自然の営みは昔から変わらず繰り返されているわけじゃないですか。人それぞれ、そういうことに気づくタイミングというのがあるような気がして。
もちろん若い頃からそういうことに敏感な人もいるんでしょうけど、ご本人も書かれているように、忙しさの中でそういう感覚を鈍らせてしまっていたんでしょうね、私も。そこから歳を重ねて、ゆっくり周りを観られるようになってきたことで、彼女が言っていることにすごく共感できるようになった気がします。
――作中で、とくに印象に残っている一節はありますか?
小林 たくさんありますけど、「自然がくりかえすリフレイン――夜の次に朝がきて、冬が去れば春になるという確かさ――のなかには、かぎりなくわたしたちをいやしてくれるなにかがあるのです」という文章は心に響きましたね。それから、一節ではありませんが、鳥の声が重なっていくようすとか虫たちの鳴き声のようすとか、そういうものが読むだけで音として頭の中でわっと広がるイメージがあって、表現がすごく豊かだなと思いました。
2025.04.22(火)
文=釣木文恵
写真=杉山拓也
ヘアメイク=尾花 ケイコ(PINKSSION)
スタイリスト=三好 マリコ