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 映画『ゆきてかへらぬ』で実在した女優、長谷川泰子を演じた広瀬すず。大正末期から昭和初頭にかけて、のちに不世出の詩人と呼ばれることになる中原中也と日本を代表する文芸評論家となる小林秀雄に愛され、壊れていく女性を通して、彼女が見たものとは?


大正時代の女性の生き方が今の人にはどう映るのか

――大正時代、ほぼ100年前の青春のお話です。長谷川泰子は20歳で、中原中也は17歳で出会う。その後、知り合う小林秀雄は年上とはいえ23歳と、みんなとても若いのに、大人っぽいことを話しているように聞こえます。100年前の青春というのを、どのように感じていたかを教えてください。

 今の自分たちと変わらない感覚で演じていました。環境は違うけれども、そんなに大きな変化はないんじゃないかなと思います。

――今のようにSNSがないのはもちろん、メディアと言えばほとんど活字だけだった時代です。

 ないからこそ、もう本当にここだけで世界が動いている。そんな感じだったんだろうなと思います。でも根本はそれほど自分たちと変わらないと思うので、話し方や色々な所作とかも、むしろ古臭くならないようにしました。

――長谷川泰子を通して、どんなことを受け止め、伝えたいと感じましたか?

 泰子、中也、小林という3人が、その生き方を貫く姿。現代では考えられないような感情の揺れ方もあって、どこか直視できないようなところもある歪んだ3人が、それでもなんとか生きていた。

 大正時代の女性の生き方が今の人にはどう映るのかはある意味楽しみですし、ここまで潔い生き方をした人がいたことを知ってもらうことで、すごく世界が変わるというか、誰かの力になったら良いなと思います。

 今では絶対にないような価値観を持ってる女性だからこそ、観る人によっては感情を逆なでされる人もいるだろうし、逆に彼女にすごく憧れる人もいるだろうし、この泰子がどう映るのかなっていうのがすごく楽しみです。私自身、これだ、というふうに役を固めないで行きました。

――固めない、ということは演技プランを立てないで行こう、ということですか?

 常に私はそういうタイプなんですが、特に今回は泰子を自分の中心に置くのではなく、中原中也と、小林秀雄の二人を中心に置かないといけないと思ったんです。もし中心に泰子がいると、すごく器用な生き方、器用な思考になっちゃいそうだったので。

 まず、泰子はすごく好き勝手に生きているように見えるけれど、それは彼女の中心に中也がいるからだな、と思ったんです。

 泰子が中也に出会って、喧嘩をするシーンが序盤にあったんですが、中也を演じた木戸(大聖)さんともお互いやりたい放題やって、温度の高いところで何かが共有できたような感覚があって。

 そこで、距離感と温度がこれでいいんだって思えたのが、演じるうえではすごく大きかったなと思います。

2025.02.15(土)
文=石津文子
スタイリスト=丸山 晃
ヘアメイク=奥平正芳
写真=佐藤 亘