「人間にはいろいろな面がある」ということを伝えたい
――新田さんの作品には、いわゆる世の中的な「ふつう」からはみ出た人が多く登場しますが、創作の原点はどこにあるのでしょうか?
私や私の家族が、周りから「ふつうじゃない」「変だ」と言われることが多かったんですね。先ほども少しふれましたが、父がちょっと変わり者で、絵を描くためにバイト暮らしをしたり、暑いからといってスカートを穿いたりするような人で。父が「ふつう」を押し付けられる生き方が難しい人だった分、私の「ふつう」の基準もゆるいのかもしれません。
そんな環境で育ったので、私自身は「ふつうじゃない」と言われること自体は受け流せるんですが、時々「お前の家は○○だからこうだろう」って勝手にプロファイリングされることがあって、それはすごくイヤだし、悲しくなります。
子どもの頃は学校の先生の言葉に悔し泣きをしたこともありました。だから、人のある一面しか見ようとしない人に対して、「人間にはもっといろんな面があるんだよ」「勝手に理想を押し付けるな」と伝えたいんだと思います。
――新田さんが伝えたい、人間の本質的な部分ですね。
私の漫画の主人公たちは、基本的に善人です。電車やバスでお年寄りと居合わせたら、間違いなく席を譲るでしょう。一方で、『あそびあい』の小谷だったら誰とでもHしてしまったり、それぞれ別の一面からは「とんでもなく悪い奴だ」と見えてしまうと思うんです。でも人間って、誰もがそうだと思うんですよね。滑稽だったり無様だったり、人にはいろんな面があることに気づこう、それを認めようよ、と思いながら描いています。
新田 章(にった・あきら)
青森県出身。2008年「マンガ・エロティクス・エフ」(太田出版)にて読み切り短編『くすりをたくさん』でデビュー。著書に、『このマンガがすごい!2015』(宝島社)「オトコ編」にランクインした『あそびあい』(全3巻・講談社)、TVドラマ化もされた累計100万部突破作品『恋のツキ』(全7巻・講談社)、『パラダイス 新田章作品集』(全1巻・KADOKAWA)などがある。現在「SHURO」で『若草同盟』を連載中。
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2025.02.05(水)
文=河西みのり