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「素の神尾」が見られる作品になっている

――皆さん、されると思います。そして神尾さんが演じた丈流は、漠然と将来への不安を抱え悶々としており、共感性の高い役に感じました。演じてみて、いかがでしたか?

 難しかったのですが、すごく演じ甲斐がありました。監督とはご一緒するのが2回目で、「この作品では素の神尾くんが撮りたい」というリクエストをいただいていました。というのも、前回(『彼女が好きなものは』)ご一緒したときに、「役ではなく、普通に笑ってる神尾くんを見てそれを撮りたいと思った」とおっしゃってくれて。だから素に近いというのもテーマに据えていました。

――素に近いけれども素ではなく、丈流というキャラクターをまとうわけなので難しかったということですよね。

 そうなんです。丈流という人物はもちろん意識しつつも、そこまで作り込みすぎずに演じました。僕自身は就活をしたことがないけれど、丈流の行動や気持ちを見ていると、これはすごくリアルな姿かもしれない。自分がうまくいってないことに対して強がってしまうところ、将来に希望が持てずにちょっとひねくれてしまう部分は、僕も同じような経験があったなと……。

 自分を守るために強がって見栄を張ってしまったり、友達に弱いところを見せられないとか。そこはすごく共感しましたね。

――ひねくれているなと思ったのはお仕事を始めてからですか?

 お仕事を始めた最初のときもそうですし、学生時代にサッカーをやっていたときにもありました。

――その気持ちをどう昇華していった?

 自分を過大評価しないようにしたら自然と昇華できた気がします。それまでは「全部自分でやらなきゃ」と勝手に背負っていた感じがあったんですけど、周りの人に頼れるようになれました。今は「強い自分でいなきゃ」とも思わなくなったかもしれません。

小学生のとき、好きな子の家に電話をかけたら……

――本作のキー「ペンフレンド」は令和ではなじみのないカルチャーですが、どんな印象を受けましたか?

 本当に今の時代だったら考えられないですよね! 知らない人に自分の住所や名前、もろ個人情報を教えて手紙でやり取りするって……。ペンフレンドではないですけど、マッチングアプリは顔やプロフィールを公開するわけなので、ちょっと近いのかも? そう置き換えたら身近に感じられました。僕はマッチングアプリをやったことがないのですが……(笑)。

――神尾さんなら、どんな人とペンフレンドになりたいですか?

 共通の趣味がある人がいいなと思います。そのほうが、話したいこともどんどん出てくるかな。ペンフレンドは、自分が手紙を書いて、投函して、相手に届いて、また相手が書いて……というシステムですよね。

 手紙は相手に届くまでちょっと時間がかかりますし、その1枚に言いたいことのすべてを書かないといけないから、1回1回を無駄にできない感じがある。思いがすごく乗っていますよね。そういう価値観はすごく素敵だなと思うんです。現代だと、連絡は取ろうと思えばすぐ取れちゃうから。

――ある種の不自由さみたいなものに憧れも抱きますか?

 そうですね。手紙とは少し違いますけど、僕はLINEがない時代のメール文化を経験しているので! メールは既読かどうかも分からないし、送ったら取り消せないので、あのドキドキ感がすごくよかったなと思いました。

 家の電話とかも似ていませんか? 小学生のとき、僕は携帯を持っていたんですけど、好きな子は持っていなかったから家電にかけていたんです。向こうの親が出て、「わあ!」みたいなあるあるも経験済みです(笑)。

2025.01.29(水)
文=赤山恭子
撮影=山元茂樹
ヘアメイク=奥山信次(barrel)
スタイリスト=大内美里