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映画とドラマに違いはあったか?

――「大事なもんは、時間がかかるわ」という灯の台詞があって、フライヤーのキャッチコピーにもなっています。心の傷が癒えるのに「いつまでかかるんだ」と思っている人からすると、「時間はかかるものなんです」と言ってもらえると、少しだけ楽になれるかもしれませんね。

安達 焦ることはない――。この映画を観てそんなことをふと感じて、しんどかった思いがちょっと軽くなったり、対話のきっかけになったらいいな、と願っています。あくまでも「願い」ですが。

 灯と父親の関係性を撮りながら、人によって生きてきた時間も場所も、やってきたことも違うのだから、そら、ぶつかるよな、分かり合えなくて当たり前だよなと、改めて思いました。そんな中で、相手がどういう人生を過ごしてきて、今ここにいるのかということに少しでも思いを馳せることで、ちょっとだけ優しくなれるのかな、というようなことを、作りながら考えていました。

――安達さんの中で、映画とドラマの間に違いはありますか? たとえば朝ドラではさすがにワンカット3分33秒のシーンは撮れないとか。

安達 私けっこうやっちゃうんです(笑)。テレビドラマでも「長回し」をやりがちで。作っている段階では映画もドラマも、何ひとつ変わりはないです。届け方が違うだけで。映画は劇場という場所があって、そこへお客さんに来ていただいて、「同じ空間でひとつのものを観る」というところがテレビとは違いますよね。

 『港に灯がともる』を観終わって映画館から出たあと、ちょっとこの映画の話や、自分のことを話したいような気持ちになっていただければうれしいですし、そうやって作品が育っていってくれたら、この映画は幸せだなあと思います。

――今後、作ってみたい作品はどんなものでしょうか。

安達 今回、神戸の映画を撮らせてもらって、地域色を凝縮して描けば描くほど、逆にすごく普遍的になっていくのだと感じました。なので、しばらくはドメスティックに寄った作り方をしていきたい気持ちです。街で生きる人をちゃんと描いて、匂い立つ作品を作っていきたいです。

安達もじり(あだち・もじり)

NHK大阪放送局ディレクター。主な演出作品は連続テレビ小説「カーネーション」「花子とアン」「べっぴんさん」「まんぷく」「カムカムエヴリバディ」、大河ドラマ「花燃ゆ」、土曜ドラマ「夫婦善哉」「心の傷を癒すということ」(第46回放送文化基金賞最優秀賞受賞)「探偵ロマンス」、ドラマスペシャル「大阪ラブ&ソウル この国で生きること」(第10回放送人グランプリ受賞)など。映画『港に灯がともる』はNHKエンタープライズ在籍時に製作。

『港に灯がともる』

2025年1月17日(金)より新宿ピカデリー、ユーロスペース他全国順次公開

出演:富田望生 麻生祐未 甲本雅裕
監督・脚本:安達もじり
脚本:川島天見
音楽:世武裕子
製作:ミナトスタジオ
配給:太秦
https://minatomo117.jp/

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2025.01.17(金)
文・写真=佐野華英