この記事の連載

一度だけマネージャーに怒られた出来事

 たくさんありますが、ひとつは「気取らない」ことですね。自分をそれ以上に見せようとは思わないので、変にカッコつけたくないんです。常にありのままの自分を出し続けたいですし、そういう僕の姿を見て少しでも共感してくれたり、「頑張っているな」「応援したいな」と思ってくれる方に応援していただけたら嬉しいです。

――誰かに言われて心に残っている言葉や教えはありますか?

 芝居を始めたての頃に、一度だけチーフマネージャーに怒られたことがあるんです。その頃は僕が未熟で、現場に対しても今みたいにちゃんと向き合えていなかったし、弱音を吐いたこともありました。そういうことが周りの人達にも伝わって、ある日チーフマネージャーから「現場で弱さを見せるな」と言われたんです。

 どんな業界でも「眠いわ~」とか「疲れた」と口に出しながら仕事している人は絶対に重宝されないですよね。当時の僕はそこの心構えが全然できていなかったので、チーフマネージャーにそう言われてから、現場を重ねるにつれて「あの言葉の意味はそういうことだったんだな」と理解することができました。

 その時の叱咤が結果的に自分にとっていい方向に働いてくれたし、だれからも注意されず、あのままの僕でその後も作品に参加していたら、きっと今回のお話も来ていないでしょうね。自分の中でこの仕事への意識が変わるきっかけになった言葉だったなと思っています。

――とはいえ人間なので、時には弱さを吐き出したいこともあると思いますが、そういう時はどうしていますか。

 今は「辛い」とか「苦しい」ということをあまり思わなくなりました。その感情がたまに「怒り」に変わることはありますが、自分の中で抱え込むことや考えることはなくなりましたね。なので、よく取材で「何か悩みはありますか?」と聞かれることがあるのですが、本当になくて! 弱さを見せる自分が嫌いになったのかもしれません。

――自分の弱さを出さないためには、強い精神力がないとできないように思います。

 だけど、それも弱いことなのかなと思うんです。自分の中にある脆さや弱さを人に見せられないということは、ある意味で「弱さ」なのかなと自己解釈していて。僕は割と小心者なので、きっと人に自分の弱さを見せるのが怖いんだと思います。きっとこの先10年、20年と年をとって、家族ができたりしたら、また考え方も変わるかもしれないですね。

2024.11.20(水)
文=根津香菜子
撮影=松本輝一
ヘアメイク=高草木剛(VANITÉS)、吉沢実希
スタイリスト=藤井晶子