もしもAIで亡くなった大切な人を蘇らせることができるなら? そして、それがまるで本人そのものだったら――。
今や、私たちの生活に欠かすことのできなくなったAI。今から地続きの将来2025年を舞台に、発達したテクノロジーに一縷の望みをかけてすがる人間の欲望と繊細さ、葛藤まであぶり出した映画『本心』が11月8日から全国ロードショーを迎える。
何も告げずに自由死を選んだ母・秋子(田中裕子さん)の本心を知るため、最新AIを搭載したVF(ヴァーチャル・フィギュア)で再現した母と暮らすことになった主人公・石川朔也(池松壮亮さん)。幼馴染である岸谷は、朔也の世話を焼きながら、執拗に彼をコントロールしようとする。そんな岸谷を大胆に演じたのは、水上恒司さんだ。
水上さんは『本心』をはじめ、2024年は映画とドラマ作品合わせて計6本もの作品に出演、八面六臂の活躍を見せた。文字通り「仕事尽くしでした」と充実の表情を浮かべながら、真面目な顔と同居するお茶目で屈託のない一面をインタビューではさらしてくれた。水上さんの今の“本心”とは。
悪者だと思わずに演じる
――平野啓一郎さんの同名小説を映画化した『本心』、石井裕也監督の脚本を読んだときはどのような印象でしたか?
作品にメッセージ性やテーマがあっても、そこに普遍性がないと人々の心は打てないと僕は常々思っているんです。『本心』は普遍性がしっかりとありつつ、それでいて観る人たちが何を感じるかは自由で、余白がしっかりある脚本だなと思いました。
僕の思う普遍性とは、どの時代でも大事で変わらないもの。この作品でいうと、「人の愛を知りたい」「本心を知りたい」というところに変わらないものがあると思います。
――演じられた岸谷についても教えてください。朔也への愛情と執着がないまぜになっている人物でしたが、どう演じようと意識していたんですか?
朔也をどれだけ「邪魔」できるかを考えました。岸谷は朔也に対して、都度否定したり、見下したような態度を取っていますよね。心のどこかで「僕がいないとダメなんだよね、朔也さんは」と思っているから言葉にも出していましたし、(朔也に絡むことが)そのときの岸谷の生き甲斐みたいなものだったんだろうな、と思います。
岸谷に悪意はないんですけど、それが一番タチが悪いというか。「あなたのためを思って」という人ほどタチが悪いですよね(苦笑)。僕自身が岸谷を悪者だと思わずに演じることも大事にしていました。
――作品の良さについて「余白がある」ことを挙げていらっしゃいましたが、水上さんの演技こそ、岸谷が観る者次第で良いようにも悪いようにも受け取れる、自由度の高さがあったように感じます。
それこそが、『本心』の脚本の完成度の高さだと本当に思っています。いい作品、いい脚本、いい芸術、いい創造物は、こちらから押し付けることなく、自然発生的に「どう思う?」と相手に問いを与えると思うんです。
「こうだ!」と断定する上司よりも「こうだと思うんだけどさ、どう思う?」と言える上司のほうが、いい上司だったりするじゃないですか。そういう魅力がこの脚本にはあったので、自由度の高い解釈・意見をひとりでも多くのお客さんに持たせることができたら、ある種の達成感があるのかなと思いました。
2024.11.07(木)
文=赤山恭子
撮影=釜谷洋史
ヘアメイク=Kohey
スタイリスト=藤長祥平