過剰なキメ顔になっていないか自問自答

――「おもしろいから書くのではない、書いているからどんどんおもしろいことが増えるのだ」と書いていらっしゃいます。書くから面白いことが増えるとはどういうことでしょうか。

 書こうと思いついた時にすぐにメモできる状態で暮らすのと、「よし書くぞ」と気合いを入れて書くスタンスで暮らすのでは、前者の方が些細なことでも面白がれるような気がして。書くことに対しては腰が重くない方がいいと思っています。感動とか大きく心が動くことにしか書く手が動かないようにはなりたくない。普段の暮らしの中で見つけたことを面白いって感じられるほうがちょっと得をした気持ちになれませんか?

 ただ、その一方である程度面白いことを見つけようと躍起になる時期を経ないと、自然に書けるようにはならないのかもしれない。積み重ねることも必要です。

――くどうさんにも躍起になっていた時期はありましたか?

 もちろん! めちゃくちゃありました! 特に学生時代は、友達と話していて印象的なフレーズが出てくると「ゲット!」って思ってしまいました。

 ただ当時から、ドラマチックに書くことよりも、着眼点でオリジナリティを出したいとは思っていて。喧嘩したとか、家族が亡くなってしまったとかは自分より上手に書ける人がたくさんいますし。

 文章に対して粋でいたいのかもしれないです。このごろはもう少し腕を伸ばせばパンチが届くとしても、当てずに倒す方がかっこいいと思ってます。『わたしを空腹にしないほうがいい』(2016年刊行の「食べること」にまつわる文章をまとめた書店「BOOKNERD」発行のリトルプレス)は、本を出すなんてこれが最初で最後だと思って書いたので、腕をめいっぱい伸ばしてパンチを当てにいっちゃってるから、文章の「決め」が強い。今読み返すと「うお、頑張ってるね~」って感じます。

――たくさん書き連ねても最後の一文だけ残す、ということをするとおっしゃっていましたが、それは粋でいるためのものでもありますか?

 そうですね。どこからが書きすぎで、どこまでがちょうどいいのか今も模索しています。その時の気分によって左右されるけれど、過剰なキメ顔になっていないかは自問自答していますね。

日記を書くのは朝がいい

――一日の中で日記を書くタイミングは決めていますか?

 この連載を続けていた時期は、朝、仕事を始める前に書いていました。

――一晩寝かせるんですね。

 寝る前に書いちゃうと、どんな眠りだったか書けないから。その日が完全に終わってから振り返らないと、文章に手を入れることが増えてしまう。翌日の朝がちょうどいいタイミングでしたね。

 9時から始業するって決めているので、その前にお化粧をして、8時半から30分くらいかけて書くのがルーティンでした。なんか調子出ない日や機嫌が悪い日ってすっぴんなことが多くって。なので、最低でも眉毛だけは描くようにしています。疲れていて、かつすっぴんのときに鏡を見ると余計にまいっちゃう時ありませんか? いつ落ち込んでもいいようにお化粧をしている感覚です。

 また、9時に仕事を始めると決めておくと、9時から動いてこれしかできないんだから、もっと遅れてたらもっと大変だったと思えるので心が楽になるんです。

2024.11.09(土)
文=高田真莉絵
撮影=佐藤 亘