この記事の連載

優れた娯楽作品は多面的であるべき

酒井 優れた娯楽作品は多面的であるべきだと思います。ジャンルは「こうあらねばならぬ」という枠ではなく、作る方からすると足掛かりとしてのヒント、大らかな「要素」なのです。僕は作品をどう見てもらいたいかはあまり考えていない。大森さんは出来上がった作品のどこを切り取って商業的に売り出していくのかかなり苦悩されたと思います。

 僕は大森さんが「BL」と銘打った理由は、ジャンルという入り口から入ってきた観客に不意打ちで作品の多面性をぶつけようとしたからなのかな、と思っています。ジャンルへの愛は時として一方向だけに深化しすぎ、横の出会いが閉ざされてしまうこともある。そういうときに「意図せず何かに出会う」経験は貴重です。テレビという「不意に自分の知らない何かに出会うことがあるフォーマット」を主戦場とする大森さんらしい切り取り方ですよね。

大森 現代の若い観客は昔以上にジャンルから入ってくる印象があります。「よくわからないものを見にいく」のは一部の好事家だけなのでは、とすら思います。酒井監督の言う通り、私は作品を通して観客を意図していないものに出会わせたかったのかもしれません。

後篇に続く

『フィクショナル』

テレビ東京で「行方不明展」「イシナガキクエを探しています」を手掛けた大森時生が、酒井善三監督とタッグを組み初プロデュースしたBL(ボーイズラブ)ドラマ「フィクショナル」を11月15日(金)より劇場公開することとなりました。

先日動画プラットフォームBUMPで配信開始するやいなや、BL作品としては異例の緊張感溢れる不穏さで大きな話題となり、各界を代表する著名人からもコメントが寄せられています。

また、今回の劇場公開を記念し、酒井善三監督の前作である「カウンセラー」もリバイバル上映されます。

【劇場】    シモキタ - エキマエ - シネマ『K2』/新文芸坐 他
【出演者】 清水尚弥、木村文 ほか
【脚本・監督】 酒井善三
【プロデューサー】 大森時生
【公式X】  @fictional_TX
https://www.tv-tokyo.co.jp/fictional/

次の話を読む「フェイクニュースの悪質さは、意図の見えなさ」酒井善三監督が『フィクショナル』で荒唐無稽の先に見せた“現実”

2024.10.31(木)
文=むくろ幽介
写真=鈴木七絵