梓に向けられた瞳は水晶のようにきらきらと輝き、羽は淡い月光の中でも硬質な紫と瑠璃の輝きを帯びるほどに艶々としている。大きさを見なかったとしても、どこか八咫烏(にんげん)離れしているというか、それのまとう空気の色、そのものが違って見える。

 唖然と見上げていた梓は、しかしその烏が、何かを(くわ)えていることに気が付いた。

 何だろう――籠のようだ。

 すると、梓の視線を受けた大烏が、そっと足元にそれを置いた。

「この子は、貴女(あなた)の息子か?」

 思いがけず、少年のような高く澄んだ声が響く。

 見れば、花の咲いた藤蔓(ふじづる)で編まれた籠の中で、息子達が眠っていた。

「雪哉――雪雉!」

 駆け寄り、むしゃぶりつくように籠にすがりつく。

 弟を抱きしめるように、泥だらけとなった雪哉がいる。雪雉の方は、まぶたを真っ赤に腫らしていたが、どちらも目に見える範囲では、どこにも怪我はないようだ。

「安心しろ。ちょっと眠ってもらってはいるが、すぐに目を覚ますだろう」

 すまないな、とはっきりとした御内詞(みうちことば)を話し、大烏は首をかしげた。

「私が中途半端に結界を繕ってしまったものだから、ほころびに足を取られていたのだ」

 意味が分からずぽかんとすると、大烏は言い直した。

「この子達は、自力では抜け出せない場所に、はまり込んでいたということだ。私のせいだから、どうか𠮟らないでやってくれ」

 梓は夢中になって頷いた。

「あなたは――山神(やまがみ)さまの、お使いですか」

「……まあ、そんなようなものだ」

「息子たちを助けて頂いて、ありがとうございます」

「もとはといえば私のせいだ。この子達が大きくなったら、いずれ、また会う機会が来るかもしれん。良い子達だ。大切に育てよ」

 大烏はそう言い残すと、翼を翻して飛び立った。

 また、月がぐにゃりと歪む。瞬きの刹那に、まるでまぼろしのごとく、大烏は空の中へ融けるようにして消えてしまった。

2024.09.28(土)