「ごめんねえ、雪哉。一緒に、おうちに帰ろうね」
きっと、色々と我慢をさせていた。申し訳なく思ったが、それでも、こうして泣いてくれるのであれば、まだ何とかなると思った。
雪哉の泣き声を聞きつけ、郷長屋敷の方から慌てふためいて人々が駆けつけて来た。
その先頭に立ち、全力で駆け寄って来るのは、雪正だ。
「雪哉、雪雉! お前ら、どこに行っていたんだ!」
心配したんだぞ、と心底ほっとしたように叫ぶ夫の声。その後ろからは、転がるように駆けて来る長男の姿もある。
今ならまだ、大丈夫。順風満帆とはいえないかもしれないけれど、それでも、この子は自分の息子であり、自分達はひとつの家族なのだ。
今のうちに気付けてよかった。
死んだ八咫烏は、山神のもとに働きに出るという。
もしかしたら、山神に仕える冬木が、このままではいけないと思い、自分にそれに気付く機会を与えてくれたのかもしれない。
――冬木の穏やかな笑い声に似た、木ずれの音を聞いた気がした。
烏百花 蛍の章 八咫烏シリーズ外伝1
定価 726円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)
2024.09.28(土)