2024年4月6日からスタートしたNHKアニメ『烏は主を選ばない』は、9月21日の放送をもって全20話の今シーズンを終了します。そして、実はこのアニメの冒頭とラストに大きく関わってくる、若宮と雪哉の本当の出会いが、阿部智里さんの原作「八咫烏シリーズ」外伝の「ふゆきにおもう」(『烏百花 蛍の章』所収)に描かれています。

アニメへのご声援に感謝し、「ふゆきにおもう」を期間限定(~2024年10月8日まで)で特別公開! 本編に登場する多彩な八咫烏たちひとりひとりを照射した、魅力的な短編がずらりと並ぶ「八咫烏外伝」を、この機会にご愛読いただければ幸いです。


八咫烏シリーズ 外伝
「ふゆきにおもう」
阿部智里

 垂氷郷郷長(たるひごうごうちょう)の次男坊と三男坊が行方不明となったのは、まだ朝晩の風の冷たい、春先のことであった。

 郷長屋敷では、そこで働く郷吏(ごうり)とその家族達が、一堂に会して食事をするようになっている。郷長の妻である(あずさ)(くりや)を預かる立場として、夕餉のために手ずから大量の菜っ葉を白和えにしている最中だった。

 外に遊びに出ていた長男が「チー坊と雪哉(ゆきや)がいなくなった」と駆け込んで来たのである。

 長男の雪馬(ゆきま)は十一歳になるが、チー坊こと末っ子の雪雉(ゆきち)とは、六つも年が離れている。自立心の芽生えが著しい末弟が、かまいたがりの長男と喧嘩をした挙句、ちょっとした家出をしでかすのはよくあることであり、そんな時は、しっかり者の次男が迎えに行くのが常となっていた。

 しかし雪馬は、二人が出て行ったのは昼前なのだと、必死に訴えたのだった。

「いくらなんでも遅すぎるよ。だってあいつら、昼飯にも帰って来なかったんだよ。俺、あちこち探して回ったけど、全然見つからなくって……」

 どうしよう母上、と、焦る長男の懐からは、ひしゃげた形の竹皮が覗いている。おそらく中には、二人分の握り飯が入っているのだろう。

2024.09.28(土)