そこでようやく梓は、先ほどまで行動を共にしていた女達の姿が見えなくなっていることに気が付いた。

「……分かりました。一旦、雪馬を屋敷に帰して参ります」

 引き下がってはみたものの、喉に物が通る気はしない。

 弟達が見つかるまで探すと言っていた長男も、日中から歩き回っていたのだから、やはり疲れていたのだろう。ちょっと休むようにと連れて行った屋敷の軒先で、こてんと小さくなって眠ってしまった。誰かに雪馬を見ていてもらい、自分はもう一度探しに出ようと厨に向かう。

 引き戸を開けようとして、ふと、聞こえてきた声に手が止まった。

「チー坊はともかく、あの次男坊が、迷子になったりするもんかね。こんなに探して見つからないってことは、自分の意志で出て来ないんじゃないの」

「どういう意味だい」

「案外、こちらが必死で探しまわっているのを見て楽しんでいるかもしれないってこと」

 あの子は捻くれているからね、と言う声は、どう聞いても、次男に対し好意的には聞こえない。

 扉の向こうで、おやめよ、とたしなめる声がする。

「本当の話じゃないか。お館さま達の前ではいい顔をしているけれど、うちの子を殴ったのもあの子だよ」

「そりゃ、あんたんとこのが坊ちゃんに失礼なことを言ったからだろう」

 自業自得だよ、と呆れたような反応があるが、梓の鼓動は早くなっていくばかりだ。

 雪馬や雪雉はともかく、あの次男坊がそんな喧嘩をしていたなんて、今まで一度だって聞いたことがなかった。穏やかで、優しくて、兄と弟が喧嘩している時だって、必ず仲裁に回るあの子が、まさか。

 梓が聞いているなどと知るべくもない女は、日ごろの鬱憤を晴らすかのようにまくし立てた。

「でも、お方さまのお子はどっちもいい子なのに、あの次男坊だけ捻くれているのは、やっぱり母親が違うせいだよ。喧嘩のあと、一度だって謝りもしないんだから」

「いいかげんにおしったら。あんたが家でそんなことばっかり言うから、又聞きした子ども達が坊ちゃんにつっかかるんじゃないか」

2024.09.28(土)