冬木の猫っ毛はひろがりやすく、くせがつきやすい。慌てて髪を押さえだした冬木に苦笑しつつ、梓は櫛で軽く整えてやった。

「大丈夫ですよ。それに、あちらは謝罪に来ているのですから、冬木さまは堂々としていらっしゃればよいのです」

 きっと喜ぶだろうとは思ったが、この狼狽の仕方は意外だった。

 そうして、御簾越しに対面した雪正は、最初に潔く頭を下げた。

「昼間のことは、本当にすみませんでした。改めてお詫び申し上げます」

 それはもう良いのです、と答える冬木の声は消え入るように弱々しい。そのまま何も言えなくなってしまった冬木に代わり、梓はさりげなく助け舟を出した。

「でも、どうしてあんなに強く蹴られたのです。雪正殿は、蹴鞠をなさったことがなかったのですか」

「いえ。そういうわけではなかったのですが。彼らが、物知らずの田舎者に中央流の作法を教えてやろうという態度だったので、つい腹が立って……」

 心底恥じ入った風ではあったが、大体何があったのかは察せられた。しかも、その気持ちは大変よく分かるものだったので、梓も厳しい態度をわずかに和らげた。

「それは、まあ、同情いたします」

「姫さま方には、ご迷惑をおかけしました。詫びとはいえませんが、どうぞこれをお納めください」

 そう言って雪正が背後から取り出したものを見て、冬木が息を吞んだ。

 薄暗がりの中、ゆったりとした呼吸のような明滅は、鬼火灯籠(おにびどうろう)よりも淡く、鮮烈な色をしている。

 雪正の用意した詫びの品は、美しい緑色に光る、不思議な棒状の何かだった。

「それは、何なのです?」

(ほたる)です」

「中に蛍がいるのは分かりますが……でも、それを入れているのは植物でしょう」

「姫はご存知ないかもしれませんが、これは、葱坊主(ねぎぼうず)です」

「ねぎぼうず!」

 その、幻想的な見た目にそぐわぬ間の抜けた名前に、冬木は目を丸くした。

「ほたるぶくろは見たことがあるけれど、葱とは、また……」

2024.09.28(土)