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「会社員」である自分をもったまま、次のステージを探していた

──生活習慣や文化の違いは、暮らしてみないと本当にはわからないところも多いですよね。冬の厳しさも実際暮らして実感されたそうですが、「冬暮らしの準備」では、長い冬を過ごす工夫が紹介されていて楽しそうでした。

 本書でも描いた通り、ヘルシンキの1月の平均気温はマイナス5度で、日の出が9時半頃、日の入りが15時半頃です。だから街中は14時頃からイルミネーションが灯りはじめ、1年目はそんなところにも日本との違いを実感できて、毎日が新鮮で楽しかったです。

 ただ、2年目以降は「ビタミンが大事だからフルーツも食べて」という周囲からのアドバイスや、「冬は太陽を浴びる時間が少ないので、家の中で人工的に光を浴びる『日光ライト』を使うといい」などの生活の工夫を、自分の生活にも取り入れるようにしています。

 幸い、私はまだ「冬季うつ」といわれる季節性のうつを経験せずにいますが、フィンランドの冬を快適に過ごす工夫をしている自分を客観的に見て、「住んでいるな」という実感を強めています。

──マリメッコなどで明るい色が多いのも、フィンランドの長い冬を少しでも明るく過ごせるようにという工夫からなのでしょうか。

 そうかもしれませんね。インテリアアドバイザーさんにお聞きしたら、フィンランドのデザインに鮮やかなものが多いのは、色彩が失われる時期に、せめて家の中だけでも明るくしようという生活の工夫ではないかと教えていただきました。

──chikaさんは今回室内インテリアのコンサルティングを、インテリアアドバイザーさんに依頼されていますが、フィンランドでは、これは一般的なことなのでしょうか。

 わざわざコンサルティングを頼むということは、あまり一般的ではないようです。ただ、フィンランドでは、自分で家をリノベーションしたり、自分でログハウスの別荘を建てたりする方が多いので、日本でもおなじみのIKEAには、日本の倍以上のスペースの相談ブースがあります。ここで相談されている方はたくさんいらっしゃいます。

 フィンランドの友人や知人に聞いてみると、親から譲り受けたものを使って、あとは自分の心地よさをそこに掛け合わせながら作る工夫をしている人も多く、DIYを楽しんでいるなという印象です。冬が長く、家で過ごす時間が多いからこそ、スペースに対する意識の高さや、貴重な夏の太陽を感じるサマーコテージというサマーホリデー用の空間を作ることに対する感度の高さが自然とできあがっているように感じています。

 いつだったか、テレビ番組で、「日本の工作の授業はフィンランドから始まった」というのを見て、なるほど、と思ったこともありました。

──chikaさんのように、憧れを夢で終わらせずに実現させるためにはどうしたらいいと思われますか? 読者へのメッセージもお願いします。

 新しい挑戦をする時は、どうしても尻込みしてしまうと思います。でも、挑戦をするために今の環境を諦める必要はないと私は思っています。

 たとえば私は、会社を辞めずに週末だけカフェで働いたり、会社員をしながら週末にお寿司職人の学校に通ったりと、「会社員」である自分をもったまま、次のステージを探していました。

 「新しいことを始めるには、今持っているものを捨てなくてはいけない」と思いがちですが、挑戦には困難が伴いますし、「やってみたけど自分には合わなかった」ということも時にはあります。

 でも、「持っているものを諦めず、両立させる」という考えでとりあえず始めてみたら、意外とうまくいくこともあります。

 だから私は「まずやってみる」ということをおすすめしています。

 失敗も遠回りも「自分にしかない経験値」だと考えれば、経験値を掛け合わせることで、自分にしかないキャリアが生まれます。そういう考え方を持っておくと、どんな挑戦にも意味が生まれるし、面白い人生に導いてもらえるんじゃないかと思っています。

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2024.09.18(水)
文=相澤洋美